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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2019.10.06
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カテゴリ:昭和期・後半男性
  『騎士団長殺し・第1部第2部』村上春樹(新潮社)

 この本の読書報告は2回目です。
 2回目というのは、連続としてのものという意味ではなく、本ブログに2回別々の感想文を書いた、という意味ですね。ついでに、わたくし本書は2回目の再読になります。

 前回、本書の読書報告をした時、同時期に出版された村上春樹のインタビューの本について、かなり面白かったもので、何だかそれが中心の報告になってしまいました。
 今回も同じインタビューの本をパラパラと読んでいたら、やはりとても面白く、これはいけないこのままでは前回と同じ展開の読書報告になってしまうと思い、読むのをやめました。そして、単独に小説そのものの読書報告を書こうと思ったんですね。

 でも今回も、報告のきっかけについてだけは、記憶をたどってインタビュー集の中の筆者の言葉を取っ掛かりにしたいと思います。

 筆者は小説を書く時、全体のまとまりとか、各部の意味とかを全く考えないでまず第一稿を書くと言っています。
 しかし、そんなことをしていたら脈絡がなくなってしまわないかというインタビュアー(作家の川上未映子です)の質問に対して、筆者は、自分もそれなりの作家キャリアを重ねてきて、読者に対していわば「悪いようにはしない」というポイントだけは押さえていると答えています。

 この「悪いようにはしない」の具体的なものは、例えば何なのでしょうか。
 期待を裏切らないという意味で考えるなら、私にとって、村上作品が一番に期待を裏切らないのは、主人公の性格設定です。

 私にとってこれは多分間違いありません。私は、村上小説は『風の歌を聴け』以来ほとんどを読んでいますが、読んでいて快感を覚えるものの第一は主人公の人柄であり、そしてそれに基づく生き方であります。それを少しまとめてみますね。

 1.ストイックさ。我慢強さ。欲望、特に物欲の少なさ。自分なりの価値判断はあっても偏ったこだわり方はしない。
 2.頭の良さ。明晰さ。整理能力の高さ。一人で生きるある種の能力の高さ。加えて様々な事柄に対する知識量の豊富さ。
 3.そして、美人とのふんだんなセックス。(これは人柄ではありませんが、あえていえば魅力ですかね。)

 こう並べてみましたが、どうでしょうか。考えれば、確かに村上作品の主人公は、一貫してこのパーソナリティを裏切っていないように思います。(「3」はちょっと作品による違いはありそうですが。)

 でもそれって、本当にいいことなんでしょうかね。
 文学的な話なんでしょうか。(歌手なんかは、新しいアルバムを出す時あまりに前作と比べて「新境地」の曲ばかりを並べないと、どこかで聞いた気がしますが。)

 「悪いようにはしない」は、ストーリーについてもいえそうなところがたくさんあると思います。
 まず、これも村上春樹がインタビューの中で言っていたことですが、自分は登場人物の「近代的自我」のようなものは(「地下一階」と筆者は表現しています)、書きたくない。書きたいのはその奥の(「地下二階」と書いてあります)「無意識」「集合的無意識」といった領域だ、と。

 そういわれれば、村上作品定番の「井戸」とかは、そんなもののメタファーのような気がしますね。これも「悪いようにはしない」の一つなんでしょうか。

 しかし、私は今回そんなことも考えながら読んでいて気づいたのですが、確かにストーリーにおいては「地下二階」のような展開、つまり「意味」とかを求めないものになっていると読めそうです。
 ただ実際に、読者に対して「悪いようにはしない」と迫ってきそうな個所は、例えば本書でいえば、妻の「ゆず」との再生活に至るやり取りの部分であり、これは「地下一階」の「自我」フロアの話ではないのでしょうか。

 「私」が「ゆず」ともう一度話し合おうと決心したのは、「私」が「地下巡り」を経験することで、自分の「ゆず」に対する欲求=自我のありかを自覚したからではないのでしょうか。
 つまり、「集合無意識」に寄りかかって展開した部分は、実は「悪いようにはしない」には当たっていないことを、筆者は本当は分かっていてわざとそんな風に言っているのでしょうか。

 さて、そんな「無意識」のようにどんどん進んでいくストーリーですが、冒頭にも書きましたように、私はこの度の読書は再読で、ストーリーについては、かなり穴あきでしたが割と覚えていた状態で読みました。

 そうすると、やけに気になったのは、謎の多さでした。本当にこれでもかこれでもかと、出てきます。なんだかまだ食べている途中にどんどん次の料理が出てくる、時間制限付きのコース料理のようです。

 前半のクライマックス騎士団長の登場までで、ちょっとどんな謎が出て来たのか、少し書きだしてみます。(小さな謎は見落としているかもしれません。)

 1.妻の離婚請求の謎→未解決
 2.雨田具彦の変貌(人柄・画風)の謎→詳細は未解決
 3.「騎士団長殺し」の絵の謎→未解決
 4.免色の生き方(黒歴史)の謎→詳細は未解決
 5.宮城県の女とスバル・フォレスターの男の謎→詳細は未解決
 とあって、そして満を持して、
 6.鈴の音の謎から騎士団長の登場

 となるのですが、すみません、……えー、もう少し詳しい報告は、次回に続きます。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2019.10.06 08:18:51
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