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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2020.03.07
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  『クワイエットルームにようこそ』松尾スズキ(文春文庫)

 私には、読書指導のメンターのような方がいます。
 いえ、実際、世の中にはちょっと信じがたいような「本読み」は、実はごまんといるようですね。ちょうど先日話をしていた若い知人も、そんなことを言っていました。

 その知人が言っていた「本読み」の方は、私でもちょっとお名前を知っている「文芸評論」っぽいことをなさっている大学の教授(知人は数年前にその大学を卒業したんですね)ですが、その先生についてこんな風に言っていました。

 その教授の研究室で話をしていた。その部屋は本当に本で埋め尽くされていた。で、ある話題が出ると、さっと先生がそれに関する書物を本の山から抜き出してくる。また別の話題になると、またさっと抜き出してくる。その繰り返し。そして、実に知識豊かなおもしろいお話をなさる、と。

 ……なるほど、まー、世の中、人それぞれですから……。
 で、話を戻しまして、私の読書メンターの方が言ってたことですが。
 年を取ってくると、なかなか新しい作家の作品を読もうという気持ちが起きにくいよねぇ。つい、昔読んだ評価の定まった作品に手が伸びないか。

 考えればわたくしも、10年以上もこんな読書報告を書いていますが、10年以上も前からすでにその通りで、最近こそ少し何でもありーになってきましたが、始めは高等学校の国語副教材の「日本文学史」教科書に名前が載っている小説家の本だけを読むというのが、本ブログのコンセプトでした。
 私の場合は、いわば始めっから新しい作家や作品は、なかったことにしちゃっているんですね。実に「保守反動」の固まりのような考え方であります。

 とはいえ、やはりそれではいかんだろうという気もありまして、わたくしの部屋の「まだ読んでいないが近々読みたいものだ本棚」には(この本棚から別の本棚に移行する本は二種類あります。めでたく読み終えて、「もう読んだもんね本棚」に移行するか、「読んでないしもはや読む気もない本棚」に「左遷」されるかであります)、だいたい160ページくらいから200ページほどの文庫本が、10冊くらい並んでいます。

 時々行く全国展開の中古本屋さんで、主に110円(税込み)で目についた時に買った本です。200ページ以内で揃っているのは、その小説が芥川賞受賞作品(またはそれに近いもの)だからですね。

 そんな本は、なるほど「メンター」の言う通り、本棚に並んではいても確かに「次はこの本を読もう」と積極的にチョイスする気になりにくいものですね。
 でも、いつまでもそうも言ってられないし、まー、読み出したらそもそも短めの本だしということで、本書もそんな風に読み始めたものです。

 ……と、やっと冒頭の小説の読書報告です。
 この小説は芥川賞受賞作ではないんですね。残念ながら受賞には至らなかった、と。

 ……んんーー、やはりよくわからないんですね、これが。
 いえ、ストーリーはよく分かるし、描かれ方だって、難解でもないしいたずらに軽薄でもありません。いえ、頑張ってしっかり書けているよねという感じもするほどです。

 小説とは何かを考えていくと、結局は文章だよねーという感じは私なりに分かります。以前も触れたと思いますが、文章とは、絵画で言えば色の良さだし、音楽で言えば声楽なら声の良さ、器楽ならいい音が出ているかと同じでしょうから、文章が良ければそれでいいではないか(それが100%とは言わないまでも)、とは思いますが。

 私がよく分からないのは、書かれている内容の意味、というか「価値」なんですね。
 このお話は、精神病棟のお話なんですね。だから出てくる人物の多くは、いわば病気の方々です。
 昔から、病気自慢とか貧乏自慢といった話は数多くあります。読んでいて、いわゆる「規格外・常識外」の状況にびっくりするからですね。
 でも、精神病棟の「規格外・常識外」は、やはり「病気」のせいであって、それをテーマに描いてどのような「価値」があるのか、どこか違っていないか、という気がするんですね。

 例えば、終盤に出てくる、主人公が病棟で「信頼」している人物(やはり患者です)が、突然驚くような行為をする(状況に陥る)というのも、彼ら(本当は「彼女ら」)が病人じゃないなら衝撃を受けてもやむなしと思うのですが、精神を病んでいる人が起こすとんでもない行動に主人公が衝撃を受けるというのは、どうなんでしょうか。(それって、少し極端かもしれませんが、風邪を引いて体温が38度あることに衝撃を受けるというのとどこが違うのでしょうか。)

 あるいはそれは、例えば自分も精神を病めば同じ事をするかもしれないとは思わないということでしょうか。
 本作品のラストシーンも、私は同様の違和感を感じました。
 主人公は「信頼」していた友人の患者が、一度は退院しつつ病棟に舞い戻ってきたかもしれないという状況に衝撃を受け、友人を精神的に「切り捨てる」場面で終わります。
 しかし、信頼していた友人が狂気に舞い戻る、あるいはやはり以前よりずっと狂気だったかもしれないという状況は、そのまま自分も同じかもしれないという認識にまで及んでいるのでしょうか。

 私が疑問に思うのは、友人を切り捨てて終わりのエンディングに、何より筆者がそうなっていないのかということで、もしなっていないのなら、そこをきちんと書き込んでいるかといったことです。
 ……うーん、読み終えて、なかなか納得できなかったのが、残念といえば、少し残念です。

 でも新しい作品を読むというのは、なかなか、えいやっ、と入っていきにくいめんどくささはあるものの、それくらいのがんばりくらいは、すべきでありますよねぇ。
 少し、反省の日々。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2020.03.07 09:28:17
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