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2020.11.15
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​  『谷崎潤一郎 性慾と文学』千葉俊二(集英社新書)

 以前より何度か本ブログで書きましたが、私は、大学は文学部というところに大昔通っていました。そこで、まー、何年か何となく通っていたら卒業せよと言われて、卒業したんですね。その時の卒論のテーマが、谷崎潤一郎でした。

 なぜ谷崎だったのか、今となっては忘却の彼方の出来事ですし、谷崎を選んだことでその後の私の人生が大きく変化したわけでもなかったので、はっきりどうでもいいような話ではあります。でも、今回の読書報告のように、谷崎作品や、谷崎がらみの本を読むと、やはり何となくあの頃を思い出し、そして、谷崎文学とは何だったのだろうとぼんやり考えてしまいます。

 本書には、何種類か、谷崎文学とは何かをまとめた表現が出てきます。
 たとえばこれは、有名な、伊藤整が書いた文です。かつて谷崎と言えば「思想のない作家」と言われていた頃に発表されました。

 ​肉体の条件において倫理的であることは、如何にすれば可能であるか、また如何に不可能であるか。これが谷崎潤一郎という作家の本来の思想の問題であった。​

 ふむ。「肉体の条件において」というのが何だかよくわかりません。また、「倫理的」という語が本当に谷崎文学を表す言葉としてふさわしいのかについて、これはもっとよくわからない気がします。(まー短い引用ですから。)

 もちろん、本書の作者自身による、谷崎文学とは何かの短いまとめも、いろんなところに書かれてあります。例えばこんな感じ。

 文壇デビュー期の『刺青』、『麒麟』以降の谷崎の作品は、すべてが「性慾の解放」の文学だったといっていい。

 (略)以後の谷崎には、その「堕落」と、社会的に「悪」と認定される行為とを、芸術的にどのように救済するかということが大きな問題となる。

 若いころの谷崎作品の最大の特色は、みずから制御しきれない欲望に振りまわされる身体をもった人間の悲喜劇を描くところにあったといえる。

 こんな感じなのですが、基本のトーンは、伊藤整の切り口と同じですね。
 まー、谷崎文学とは何かというような大上段からの問いに対しては、こんなまとめでいいのかなとも思います。(あまり大きい問いかけは、答えの方も少しスカスカにならざるを得ないところがあるように思います。)

 しかし実際に谷崎の小説を読んでみると、それも、天才的な文章表現を読む快さを一応脇に置いておくと(そんなことしてまで読む意味はあるのかとは思いますが)、後に残っているものは、例えば『刺青』なら「傷害罪、監禁罪、麻酔剤の取り扱いにおいて薬機法違反、ストーカー規制法違反、東京都の淫行条例違反」(本文の表現)となります。(……うーん。もちろんここまでは言いすぎですがねー。)

 身も蓋もないいい方ですが、「早い話が、日本の男子の恋愛は何処迄もあの卑しい「スケベイ」と云ふ言葉に尽きる。」(谷崎作『恋愛と色情』の削除された草稿部分より)

 しかしそんな「スケベイ」なことを書いていた谷崎自身が、やはり大いなる苦闘をしていたことも事実であるようで、例えば私は、本書を読んで初めて知ったたくさんのことの中で、下記の事実に衝撃を受けました。

​ 雨宮傭蔵『偲ぶ草 ジャーナリスト六十年』には、木下杢太郎から聞いた話として「谷崎がカストラチオン(去勢)をやってくれといってきかず、皆で止めて漸く思いとどまらした」ということが記されている。​

 そしてこのように作者はコメントしています。

 ​谷崎は霊肉一致の境地を希求しながら、それがたやすく得られないところから恋愛と色情とをそれぞれに分けて考える傾向があった。が、その矛盾が露呈して、身と心がバラバラになることに堪えられず、にっちもさっちも行かなくなったとき、自己の身を滅ぼしても観念の世界において理想の女性を愛しつづけたいという願望があったようだ。​

 なるほど。そういわれれば、去勢願望は『春琴抄』の佐助の自らの眼を潰す行為と同一の地平にあるような気がしますね。

 ともあれ、そんな谷崎論が書かれてあります。
 「性慾」というものの本当に難儀な姿が、文学的才能も偉大なら「性慾」も「歪」に偉大であった作家について考察されています。
 もちろん面白くはありましたが、例えば谷崎の『鍵』を読んで、読後感が爽やかとは言い難いように、本書の考察された内容も、人間の存在の本質を暗示するかのように、何といいますか、やはり重苦しいものがあると感じました。


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Last updated  2020.11.15 08:21:59
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