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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2020.12.13
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  『パーク・ライフ』吉田修一(文春文庫)

 少し前に、薦められて吉田修一という作家の本を初めて読みました。
 『ウォーターゲーム』という本でした。
 前もっての情報もあまりなく読みました。いえ、二つだけこの作家についての情報がありました。

 一つは芥川賞受賞作家だということ。もう一つは、いつだったか、NHKの番組で飼い猫と一緒に映っている番組宣伝を見ました。(その番組は見ていません。)

 まずまずの長さの長編小説でしたが、読み始めました。
 しばらく読んでいたら、殺し屋が主人公の村上春樹の『1Q84』を連想しました。そんな話かな、と思いました。

 ところがあれよあれよととんでもない展開になって、終盤は「007」か「ルパン三世」みたいな感じになっていきました。
 少し、いえ、かなり、あっけにとられて読み終えました。

 もちろん「007」や「ルパン三世」がだめと言っているつもりは毛頭ありません。
 ただ、例えば今回は人間ドラマみたいな映画が見たいなーと思って映画館に入ったのに「ルパン三世」のアニメの上映だったとしたら、やはり戸惑いますよね。(しかしまー、映画では、いくらなんでもそんな勘違いはないでしょうが。)

 とにかくそんな感じでありました。
 読み終えて、しばし呆然としながら少し考えたんですね。これはいくらなんでも芥川賞とはあまりに違うだろうと。
 で、ググッてみまして、この作家が純文学と大衆文学と両方書く器用な方だと知りました。
 そこで一応納得して終わってもよかったのですが、まーせっかくだから、この作家の芥川賞系の作品も読んでみたいものだと考え、そして今、その芥川賞受賞作の読書報告をいたしております。

 さて、この文庫本は二つの作品が収録されています。
 芥川賞受賞作の「パーク・ライフ」と、受賞の3年前に「文学界」発表された「flowers」という作品です。私は、「パーク・ライフ」から読み始めて、「ウォーターゲーム」との違いにこれもまたかなり驚きました。

 この小説には、「ルパン三世」のような(何度も「ルパン三世」を出してすみません)次々とスリリングに展開していくストーリーが全くありません。

 ここに描かれているのは、例えば似通うイメージの作家で言えば保坂和志の世界あたりでしょうか。保坂和志の芥川賞受賞作も、これは極端に何の出来事も起こらない小説でしたが、あそこまで何も起こらないわけではないものの、似通った雰囲気を持つ作品でした。

 わたくし思うのですが、これは芥川賞の「好み」ではないか、と。
 何年かに一回ずつ、この何にも出来事の起こらないタイプの小説が受賞するように思います。
 表立った出来事が何もなくて、かわりに文体や雰囲気や余情みたいなもので読ませる小説ですね。(なんとなく、波乱万丈のストーリーよりこちらの方が、純文学っぽい気もしますしねぇ。斎藤美奈子も確かそんな事書いていました。)

 でも、私もこのタイプの小説がさほど苦手というわけではありません。
 何となく入り込んでしまえば、なかなか心地の良い世界のような気がします。
 ただ本作は、すぐにそんな心地よい世界に入れたというわけでもありませんでした。しかし半分を過ぎたあたりから、えらいものてすねー、段々そんな感じになってきました。

 特に終盤、気球を上げる老人が出てくるのですが、この老人はなかなか良かったです。
 私は読みながら、これは「逆・ライ麦畑」かなと思いました。
 ご存知のようにサリンジャーの「ライ麦畑」には終盤幼女が登場して、実にいい展開に導いていきます。
 確か、芥川龍之介の「戯作三昧」にも終盤幼児が出てきて、いい雰囲気を作りませんでしたかね。

 それの老人版かなと、思ったわけです。
 でも、そうでもありませんでした。作者は、そんな老人もさほど書き込もうとしませんでした。

 ひょっとしたら、このストーリーに「イベント」がほとんど起こらないタイプの小説の難しさは、いかに意味を持っていそうな形に落とし込まないかではないかと思いました。
 意味を持たせない。象徴しない。
 なるほどそう考えれば、これはこれで、結構難しいかなと思いました。

 (もう一作、受賞3年前の小説は、「パーク・ライフ」と「ウォーターゲーム」の真ん中みたいな小説でしたが、「ウォーターゲーム」を読んだ時にも感じた、少し厳しく言えばご都合主義な不誠実さを感じました。3年で見違えるともいえそうですし、「三つ子の魂百まで」ともいえそうに思いました。)


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Last updated  2020.12.13 11:03:09
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