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カテゴリ:昭和期・後半男性
『動物記』高橋源一郎(河出書房新社) わたくしの読書の「メンター」のような方に、「最近何読んでますか」と訊ねた時に出て来た書籍がこれです。私は「『銀河鉄道の彼方に』は読みましたか」と訊ねました。近々私が読もうと思っていた本です。 すると「あれは長いから。こっちは短いでしょ。」と、軽くかわされました。 実は、私としては、どうもよくわからない宮沢賢治の評価について、「メンター」的指導を受けたいと思っていたんですね。 しかし、うまくいかず、その代わり私は図書館に行って、本書を借りてきました。 そして、フェイヴァレットな高橋源一郎の小説に改めていろいろ考えました。 九つの短編が収録されています。 タイトルにあるように、みんな動物が絡んできます。 でも、基本的には「ごった煮」のような感じです。なんと言いますか、まとまりらしいものが、ないように感じます。 特に、最初の二作を読んだ時は、少しガッカリ感がありました。 私として注目すべき点がないわけではなかったものの、仮にも高橋源一郎の才能からなる小説としては、あまりに安易、不誠実、もう少し書けるでしょうに、という印象でした。 以前、私は哄笑する純文学小説が読みたいと、本ブログでも述べていました。今でもその思いは変わっていません。 そんな意味で言えば、「哄笑」は少し置くとしても、大いに笑いを伴った純文学小説に、ひょっとしたらこの二作の小説はなっているのかなと、思ったんですね。 でも、そもそもこの筆者の持つ「軽み」は、絶えず「笑い」とほぼ同一地平上にあり、多分本短編集で最も「笑い」の要素の少ない最終話『動物記』の中にも、あるといえば充分あります。 いえ私は、冒頭の二作が、それをかなり中心テーマにしたものかなと思ったのですが、それにしては、うーん、少し物足りない……。 でも、読み進めていくうちに分かってきました。 いわば最初の二作は、準備運動のようなもので、後の作品になっていくほど筆者の本来のテーマがぐんぐん色濃く表れ始めました。それは何かといえば、例えば本書にはこんな表現があります。『文章教室2』の一節。 ……なんてことをいいだすんだ、ここは文章教室であって、生物学教室じゃないんだけど……でも、文章に関係のないことはなにひとつないんです。 以前にも書きましたが、私が高橋源一郎の作品を好きなのは、このあたりの思いを真正面から(もちろん変化球ですが)綴ってくれるからですね。 昔、萩原朔太郎の文章で読みましたが、文学などを仕事にしたおかげで私には趣味というものがなくなった、何もかもが仕事になってしまったとありました。 考えれば、文学者というのも因果な職業ですね。 (同じく私が好きな文芸評論家の関川夏央も、文学について真剣に綴ってくれる作家だとは思いますが、関川氏の場合はここらへんが少し斜に構えている感じで、いえまぁ、それは、それでもいいんですけれど。) と、いう風にこの短編集のテーマは、どんどん文学そのものを説くものになっていきます。そして、どんなところにたどり着いたかというと、最終話『動物記』のクライマックスの部分が、本のオビの後表紙のところに抜き出されています。 私の希望は、意識がとぎれる前に、一匹の動物が、なにか獣のような生きものが現れることだ。 これは小説家らしい主人公が、自分の臨終の時の願いを書いているんですね。 家族は傍にいてくれなくていい、その代わりにいて欲しいもの、ということで書かれています。そしてなぜ「なにか獣のような生きもの」なのかというと、獣たちは、何を考えているかわからないものだからです。 筆者をそのまま重ねるわけではありませんが、言葉にこだわり、文章にこだわり、そして文学にこだわった主人公は、最期に、結局私は何もわかっていないのじゃないかと思い、しかし、その時にも何を考えているかわからない獣が傍にいてくれることを願います。 これを、業のように文学に憑かれた人生だと考えると、この終末は、やはり心動かされずにはいられないものであります。 そんなお話でした。冒頭に我が「メンター」が「短いから」といった本書ですが、さすがに高橋源ちゃんの小説であります。 私は、とても楽しくとてもうれしくそしてしっとりと、読み終えることができました。 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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