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カテゴリ:昭和期・後半女性
『水声』川上弘美(文春文庫) 考えてみると、川上弘美も長く読んでいないなー、と。 一時期はかなりまとめて読みましたが、ぷつっとやめました。 今思い出してみると、あの時私は、なにかこの筆者の小説には中毒性があるように感じたんですね。で、まー、避けたわけです。 いえ、中毒性があるというのは、別に川上氏の作品を貶めているわけではありません。 わたくしにとって、一時期まとめて読んでいて、同じように中毒性というなんとも非論理的な理由で読むのをやめた本に、西原理恵子の本があります。 この方は漫画家ですね。とっても面白い作品を一杯書いていらっしゃいます。 でも、まー、私は、今はほぼ読みません。わがままな読者の「特権」であります。 そんなわけで長く読んでいなかった川上作品を、この度久し振りに読みました。 川上氏の作風をほぼ忘れていたのですが、読みながら、だんだんぼーっと思い出していきました。あー、こんな感じだったなー、という感じで。 何となく覚えている作品を挙げると『センセイの鞄』(これは有名だ)とか、『溺れる』とかいう確か連作短編のようなのもありましたよね。 そんな小説と、今回の小説と、「あー、こんな感じだったなー」と私が思った相似形ニュアンスをざっくりまとめますとこんな感じですかね。 いわゆる普通(「普通」というのはなかなか定義の難しい言葉ですが)ではない切実な感受性と生き方をせざるを得ない魂を持ってしまった主人公を、ほぐれたゆるい日常の中で描いた作品群、と。 この「切実な感受性」と「ゆるい日常」のバランスこそが、この筆者の一番の持ち味であるように私は思います。 まず「切実な感受性」ですが、これはかなりシビアに描かれています。例えばこんな感じ。 陵はわたしの顔をのぞきこんだ。うす茶色の瞳の中に、わたしの目がうつっていた。せつないなあと思った。でも、何も壊さなかった。嫉妬、という言葉を陵が使ってくれたことに満足しておくことにした。陵の白目にわずかに浮いているほそい血管が、きれいだと思った。 こんな感じの「シビア」な描写が所々出てきます。ここの部分を、なかなかいいよねーと思うと、川上弘美作品は相変わらず、いいです。 ただ、ちょっと人工的な気がすると思ってしまうと、そんな気もします。 そしてそんな感覚が、論理性のゆるい日常生活の描写の中に解き放たれているんですね。 こちらの描かれ方は、これはまた、本当にかなりゆるい気がします。なんか論理性がほぼ完璧にほぐされてしまっているんですね。 例えば、この個所は多分実験的に極端に論理性をほぐしているのだと思うのですが、こんな部分があります。 白っぽい野って、なに。 聞き返したら、陵はしばらく言葉に迷っているふうだったけれど、やがて、 「たとえば荒野のように、雨風そのほかこっちにつきささってくる攻撃的なものから無防備な場所じゃなくて、なんだかぼんやりした抽象的な感じの場所」 と答えた。 短く引用したのでわかりにくいですが、でもこのせりふの言っていることって分かりますか。 私はさっぱりわかりません。実はこの後、文庫本2ページぐらいこんな感じの意味のつかめない展開があって、その後、実在する俳人の句が出てきます。私はよく知りませんが、割と有名な句らしいです。この句。 頭の中で白い夏野となつてゐる ここまで読むと、なるほどそういうことかと何となくわかるのですが、……んー、どうなんでしょう。ちょっと私は、こんなエピソードの描き方を、少し「ズルい」と感じてしまうんですがね。 まー、人それぞれでしょうが。 しかしそれじゃ、このお話は、筆者の自家薬籠中の古いテーマの焼き直し小説かというと、いえ、新しい試みももちろんあるように感じました。なかなか「斬新」な設定が。 それは、そんな切実な感受性を持った主人公を、初老にまで持っていったことであります。 細かい部分まで取り上げますと、そんな主人公が男女のペアで出てくることや、親子二代にわたっての感受性であること等も目新しい展開ではありましょうが、私としては一番の本作の独創性は、主人公を特殊な感覚のまま還暦近くの年齢に設定したことだと思います。 ただ、作品としては回想展開部が多く、全くの初老女性の話とは言い切れません。 また、主人公の年齢設定が、単純にそのまま筆者と同じになっているだけだとも考えられますが。 ともあれ、そんな、読後感を持ちました。 私にとっては少し懐かしさの感じる小説でした。読み終えた後の感覚は、悪くないものでした。
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Last updated
2021.04.18 18:13:47
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