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カテゴリ:昭和~・評論家
『白土三平論』四方田犬彦(作品社) 実はわたくし、新書版の全21冊の第一部『カムイ伝』を多分持っています。 多分というのは、現物を長く見ていないからで、多分押し入れの奥にあるだろうと思っているからであります。 私が白土漫画に初めて触れたのは、これも多分ですが、月刊漫画雑誌『少年』の「サスケ」じゃなかったかなと推理します。 だってあの頃は「アトム」と「鉄人」の2大連載漫画を誇る『少年』は、漫画大好き少年たちにとっては憧れの雑誌でしたから。(「憧れ」と書いたように、我が家にはそんな漫画雑誌を月刊とはいえ定期購読する経済的余裕はなく、『少年』は、様々な友人から月遅れ年遅れで見せてもらうのが基本でした。) その次は、と思い出すと、少し変わった思い出があります。 中学生の時、社会科担当の女の先生が、『忍者武芸長』を全巻私に貸してくれたことであります。 どんな「文脈」でそんなことになったのか、今となっては記憶がありません。 今ぼんやり思い出すと、そういえばちょっと「斜」に構えたような(これが正確な表現かどうかわかりませんが)先生だったような気がします。 そんな経験ののち私は、今考えれば、「多分」読みたくって仕方がなかったとも思えませんが、中学校高学年時に、『カムイ伝』を出るたびに一冊ずつ買っていったのでした。 そしてさらに大人になり、それを捨てるわけにもいかず「多分」押し入れの奥に眠らせたままでいます。 実は本書を読みながら、何度か押し入れの『カムイ伝』を取り出そうかなと思ったんですね。 でも、本書に描かれている『カムイ伝』のあらすじを読んだだけでも、あらすじ自体が膨大で、かつ予想通り重く暗く、陰鬱そのもののストーリーでありました。 もはや馬齢を重ね、いろいろなものに事なかれ主義になった私には、手に取るさえ怯まずにはいられませんでした。 ところで、別のブログに少し書いたのですが、先日来私は白土氏の忍者漫画をまとめて読みました。そして、私なりの結論を出したのが、白土忍者漫画は『忍法秘話』シリーズが最も面白いということでありました。(『忍者武芸長』をどう考えるかは少しペンディング、『カムイ伝』は忍者漫画から外して考えます。) さて、ここから冒頭の『白土三平論』の読書報告になりますが、そんなわけで、以下に、『忍法秘話』シリーズの作品分析に絞って、ざっくり報告したいと思います。(なんせ、長い長い長編評論ですから。) まず筆者は、前書きで、白土三平はほとんど誰からも論じられなかったと述べています。本当かなという気は少しするのですが、そうだとすると、本書における作品分析がどの程度優れたものであるのか、比較検討ができません。 ただ私としては、私にとってなかなか説得力ある作品の魅力分析だなと思うところを取り上げてみたいと思います。 実は本書には「60年代前半の短編」という章立てがあって、『忍法秘話』シリーズの分析は主にここに描かれています。 その中で私が一番なるほどと思ったのは、まとめるとこの二つの指摘です。 「階級的懐疑」・「生物主義的想像力」 なるほど、この二つの指摘は確かに白土短編忍者漫画の魅力の本質かなーと思いますね。 まず「階級的懐疑」が、作品に人間的洞察の深さを与えたことは間違いありません。 『カムイ伝』の象徴的人物「カムイ」を改めて挙げるまでもなく、漫画の読みごたえを格段に深めるこの視点は、白土忍者漫画群に、全くのオリジナルな「抜け忍」というジャンルを確立までしました。 二つ目の「生物主義的想像力」とは、忍術の技の独創的な発想並びに成り立ちのことですね。 それは極限的な鍛錬によって発揮される肉体能力の描写に止まらず、その先に「想像力的」に手に入れることのできる「肉体改造」(例えば何時間も水中に潜れる肉体とか)、さらには自然界のルール(例えば食物連鎖とか、寄生虫とか)を人為的に誘導する巧みな「忍術」として描かれるもので、特に後者の二つは、作品展開に驚くべきどんでん返しをもたらせます。 ……と、この長い評論のほんの一部だけを、わたくしなりに報告いたしました。 筆者四方田氏の評論は、私にとってはほとんど初めて読むものでしたが(確か村上春樹について書いた文章を読んだことがあるくらいです)、なんといいますか、わりとクセのない評論だなと感じました。(もっとも、漫画評論が筆者のテーマの中でどのような位置づけにあるのかはまるで存じませんが……。)
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Last updated
2022.01.09 15:07:37
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