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analog純文

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2022.02.20
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  『猛スピードで母は』長嶋有(文春文庫)

 この文庫は160ページの本文でちょうど真ん中で切れる、つまりきれいに80ページずつの小説が二つ収録されています。
 なるほどこのくらいの長さが、「芥川賞ねらい」なんていわれるちょうどよい長さなんですね。事実一作目の「サイドカーに犬」で筆者は初めて芥川賞の候補となり、半年後、本文庫の二作目「猛スピードで母は」で、見事芥川賞を受賞されました。

 私は芥川賞の内実についてさほど知っているわけではないのですが、なんかさっさっと二つ目で受賞というのは、とってもすごいように思うんですが、それほどでもないのですかね。

 それくらいにこの二作を読んでいて思うのは、文章の涼しさ読みやすさであります。
 ただしいくつかの部分については、ちょっと無造作すぎないかとも思えるような書きぶりで、でもそれでいてそのノンシャランさがあまり欠点と感じないのであります。そんな文体というのは、結構「天然」、持って生まれたものという気がします。
 すすすすっと、芥川賞を取っても、さもありなんという感じですね。

 さて私は律儀に一作目から読みましたが、読み終えての即の感想としては、上記の文体についての思いと併せて、なんてきれいにまとまった短編小説なんだ、というものでした。

 もとより、そんなに次々と事件が起こっていくたぐいの小説でありませんが(まー、純文学とはそういうものですが)、ざっと記憶しているだけで、パックマンの話とか、ミグの話とか、「ヴィヨンの妻」とか、そんなエピソードの自然さ不自然さ(不自然という表現がよくなければ作り物らしい楽しさ)の混ざり具合がなんとも書き慣れていて、これは手練れと言うよりはやはり「天然」ではないかと感じさせるものでした。

 このようなエピソードの累積は、二作目の「猛スピードで母は」でもとても見事に描かれています。
 それは一つ一つのエピソードを縦に深く掘り進んでいくのではなく、数を稼いで横に並べて人物を浮き上がらせる手法で、そしてそれがなかなかおしゃれに並べられていると思いました。

 具体的に言えば、そんなふうに描かれるのは母子家庭の「母」のプロフィールであり、それを三人称小説ながら、筆者はほぼ小学生の息子「慎」の心情に寄り添って描いています。

 では、母のプロフィールはどう描かれているか。
 作品中にとても端的な一節が、こうあります。

​ 母がサッカーゴールの前で両手を広げ立っている様を慎はなぜか想像した。PKの瞬間のゴールキーパーを。PKのルールはもとよりゴールキーパーには圧倒的に不利だ。想像の中の母は、慎がなにかの偶然や不運な事故で窓枠の手すりを滑り落ちてしまったとしても決して悔やむまいとはじめから決めているのだ。​

 どうですか。
 このような人や物との距離の取り方を選択する生き方を、たぶん我々は「ハードボイルド」と呼びます。かっこいいですね。
 作品中でも慎のクラスメイトたちが、「父親参観日」に初めて学校を訪れた母を「かっこいい」と言っています。

 しかしあえて私の興味のありかを述べますと、なぜ筆者はこんなハードボイルドな母を描くのか、そしてなぜ母はハードボイルドになったのか、ということであります。
 実はそれについては、十分に書き込めてないように思います。
 母の過去の話として読み込めそうなのは、大人は無口な子供のことをみんな真面目でしっかりしていると思っているのだというエピソードと、母がかつて両親に逆らったのは、「慎」の父親と結婚して「慎」を産んだことだけだというエピソードだけでありましょう。

 というふうに、私個人としてはやや説得力に欠けると感じるハードボイルドな母は、しかし作品の後半になって、祖母(「母」の母)が死んで、「慎」がイジメを受ける話になり、そして祖父の介護の話になるあたりから、(加えて母が婚約者と別れる原因が自分にあるのではないかと「慎」が気づくに至って)俄然重苦しい状況に放り込まれます。
 ハードボイルドな母は、はたしてそれをどう(ハードボイルドに)捌いていくのか。

 ……えー、さて、そのことの私なりの「評価」ですがー、えー、いつもながら偏向しまくっているわたくしであります故に、ピント外れのものになっていそうではあります。
 ようするに、まー、……ちょっと私は、物足りなく感じてしまいました。
 少しきつく言えば、通俗的な母子家庭小説に終わってはいないか、というものであります。

 ただ、上記にも触れましたように、読後感は決して悪くはないんですね。
 それがややエンタメっぽくはあっても、終盤の母の団地外壁の梯子登りの展開や、「須藤君」との登校途上での「慎」の涙の場面は、やはり読んでいて心を動かされました。

 そんな意味でも、本作は、文壇の登竜門芥川賞にやはりふさわしい瑞々しさを描いているものと、私は思いました。


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Last updated  2022.02.20 09:31:49
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