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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2022.05.14
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  『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子(ちくま文庫)

 2005年に太宰治賞を受賞した筆者のデビュー作だそうです。
 ただ、その時のタイトルは『マンイーター』というそうで、ちょっと大概な感じのタイトルの気がしますが、そんなことないですかね。『人喰い』ですよね。

 現在のタイトルは、筆者のほかの作品のタイトルと同じニュアンスのものですね。『この世にたやすい仕事はない』とか『まともな家の子供はいない』とかといった。

 デビュー作というのは、いろんな言われ方をしますね。その作家のすべてが詰まっているとか、また逆に、若書き、とか。
 結局、デビュー作で、少しだけでも話題にならなければ、次作の注文がこないからですかね。
 そんな意味で、すべてが詰まっていても若書きでも、デビュー作には筆者の持っているものの中で誰かが注目してくれそうな「華やか」な部分が描かれるという気がします。つまり目立つからいろいろ述べられる、と。

 一方で、デビュー作というのは、主人公と筆者がわりと重なっている気がします。
 これも考えれば当たり前なのかもしれませんが、筆者とは、今までの自己の経験とその考察からまず作品を書こうとするからでしょうね。(特に、純文学系はそんな感じがします。「直木賞」系はその限りにないかもしれませんが。)

 というわけで、実は私はこの後の展開として、今記した3点について報告しようと思っているんですね。つまり、

 1、「若書き」(かなっ)
 2、自らの経験が元(っぽいよね)
 3、筆者の資質が見て取れる(ような)

 と、いう方向性であります。

 ということで、まず「1」から考えていけばいいのでしょうが、その前に「2」の自らの経験について、私は書かれている出来事の多くが筆者の実体験だなどと考えているわけではありません。そんなの当たり前なのかもしれませんが、逆に個々のエピソードについては、ほとんど作り話=虚構だろうと思っています。

 ただ、そんなエピソードに出会う主人公の感じ方に、筆者と重なる部分が多くあるのじゃないかなと思っています。(本書には主人公の女性が好むたくさんの映画や洋楽の名前が挙がっていますが、こんなのはほぼ筆者の嗜好と重なるんじゃないでしょうか。)

 例えば、主人公の女性が小学生の時に二人がかりの男子にひどく殴られたこととか、レズっけがあることとか、あまり実体験だとは思いません。(レズっけについては、私は全く知りません。ただ本書の解説を作家の松浦理恵子が書いていますね。)
 しかし筆者の内面には、二人がかりの男子に殴られるエピソードに感覚的にほぼ相似形の体験が、きっとあったような気がします。自らの経験が元とは、そういう意味です。

 そして「1」の若書きというのも、結局そういうことだと思います。
 それぞれのエピソードはしっかり書き込めていても(筆者のセンスのいい心理主義的な描写力)、それらが並んだのを読むと、どこかいびつに感じてしまいます。

 個人的体験に何らかの形で基づいたエピソードは、それを並べるだけでは、読者にとっては、エピソード同士がぶつかり合って、説得力のある連続になりにくいんじゃないでしょうか。(それは、各エピソードが筆者自身のための描写にとどまっているということですかね。)
 そこで、大きくまとめる構成力に難がある、「若書き」なんじゃないかと。

 さて、最後に残った本作から読み取れる筆者の資質ですが、まー、まだバリバリと現役で頑張っている作家について、資質云々を書くのは私ごときにはおこがましいのですが、少し考えたいのは冒頭でも触れました、本作の「改題」のことであります。

 改題前の「マンイーター」とは、何のことなのでしょうか。
 それは、作品中に4つ(あるいは5つ)描かれる暴力事件・流血事件の事でありましょう。典型的なのは、「イノギさん」の受けた、ほとんど超現実主義的なまでに理不尽な暴行犯罪被害でありましょう。それが人間の尊厳を喰らう、つまり「マンイーター」なのだと思います。

 それに対して、改題後の『君は永遠にそいつらより若い』は、明らかに「マンイーター」に対抗する側の表現となっています。重心が置き換えられているんですね。
 いえ改題前でも、作品の展開からも筆者の置いている重心の位置は明らかでありますが、改題することで、筆者はさらに旗幟鮮明な立場を取ったわけです。

 その立場とは。
 それは、やや面はゆい書き方をすれば、「正義」でありましょう。あるいは「モラル」。

 私は近年、文学がモラルを表現しようとしないケースが多く描かれ、またそれを是とするような言説を読むことが増えたような気がして、個人的に戸惑いつつ不満足に思っていました。

 しかしなるほど、今まで私が読んできた筆者のどの作品に照らし合わせても、筆者は「モラリスト」でありました。

 近代日本文学の大文豪である夏目漱石が、同時に大モラリストである(少なくとも「モラル」が重要テーマの作品を多作した)ことを改めて挙げるまでもなく、決してモラルは現代文学においても賞味期限の切れたものではないことを、私は確信するものであります。

 (だって、小説作品からモラルを除外して、いったいどのようにして読者にカタストロフィーの快感を味わわせることができるのでしょう。)


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Last updated  2022.05.14 09:56:37
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七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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