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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2022.08.14
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  『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介(文春文庫)

 時代的なものもあるからかなと思いますが、なんだか最近の芥川賞系の作品って非正規雇用の若者の話か、介護か認知症がらみの老人の話か、そのどちらかのような気がする、というのはきっと私の錯覚ですよね。そうであってほしいと私も思っていますが、とにかく、本作もそんな話です。
 というか、上記の二つをくっつけたような話ですね。

 20代後半の男性主人公が「就活」をしながら認知症の祖父の介護をするというストーリーで、そして、この青年の介護のテーマは、「苦痛や恐怖心さえない穏やかな死。そんな究極の自発的尊厳死を追い求める」というものであります。
 その「現実的手法」は、「足し算介護」。
 本文には、別の登場人物の台詞としてこのように書いてあります。

​ 人間、骨折して身体を動かさなくなると、身体も頭もあっという間にダメになる。筋肉も内臓も脳も神経も、すべて連動してるんだよ。骨折させないまでも、過剰な足し算の介護で動きを奪って、全部いっぺんに弱らせることだ。使わない機能は衰えるから。要介護三を五にする介護だよ。​

 この方向性の介護をしながら、主人公・「健斗」は、就職活動として資格試験の勉強をしたり、ジムに行って自らの肉体を大いに鍛えたりするという話です。

 えー、どうでしょうか。
 なんか、よくわかったようなよくわからないような話という感じなのは、例えば就活とか肉体作りについては、ストイックというよりむしろナルシスティックに一心に取り組む主人公の姿が描かれています。
 しかしその一方の「足し算介護」については、どうも不徹底な描かれ方のように気がします。

 なぜかと思いますに、「足し算介護」をテーマに介護を描くというのが、やはりリアリティに欠けるからでしないでしょうか。(現代の介護現場の一端にそれがあるというのとは、多分違っていて。)
 つまり、物語のプロットとしてのこの発想自体が、まー、いわば「子供っぽい」と。だから追い詰めきれないで不徹底な形になっている、と。
 本気で「足し算介護」をするならば、何といっても対象は食事介護だろう、と。
 (わたくし、読んでいてちらっと児童文学の『夏の庭』を思い出したりしました。)

 それに加えて、本小説は主人公「健斗」とあるように三人称小説であります。ありますが、いわゆる語り手がかなりの主観を出しながら物語を進めています。
 そして、この語り手が、介護関係の物語を展開するにはかなり「うさんくさい」感じの主観を示します。

 これはなぜかなとも、わたくし考えたのですが、今、「うさんくさい」とつい書いてしまいましたが、なんか「イヤ」なんですよね。

 この「イヤ」さは何だろうとあれこれ思い出していたら、ふっと思い出したのが三島由紀夫の遺作文芸評論『小説とは何か』にあった「舞良戸」の話であります。

 三島の説く「舞良戸」のエピソードは、それはそれで面白いのですが、三島がテーマとして述べたのは「言語表現による最終完結性」でありまして、要は、小説はどんな世界を作ってもいいがその言語は厳密であると同時に、全責任を作者が負わねばならないというものでした。

 さて、本書を読んで、作品の語り手について私が「イヤ」な感じを持ったのは、語り手のある種のとぼけたような語りぶりに、介護現場に対する無理解を押しつけて、本来作者が追うべき表現に対する責任を逃れようとしているように感じたということであります。
 それは、三島的に言えば、文学表現に対する作者の不誠実さではないか、と。

 と、まぁ、そんなことがちょっと気になりました。
 ただ、読んでいるときは、そのシャープな書きぶりに(部分的にはちょっと上滑りに書き損なっている所もあるようにも思いながら)、達者な文体だと思いました。読んでいて、わりと心地よかったです。

 しかし私は、この筆者の作品をこの一冊しか読んでいないからよくわかりませんが、また、そのように感じる私の「文学」観がきっと古くさいのだろうとも思いますが、例えば「芥川の苦悩」とか「太宰の苦悩」なんて言い方と、いわゆる現代作家の立ち位置というものは、もはや全く別物で、……いえ、そんなことをぐずぐず考える方が間違っているのだろうとは思ってますが……。

 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2022.08.14 11:40:37
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