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analog純文

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2022.11.13
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  『末裔』絲山秋子(新潮文庫)

 確かかなり昔に、私はこの作家の本を一冊だけ読みました。
 と、思って探っていると、なんだ、我が拙ブログにも報告があるではありませんか。
 実はその時の読後感をほぼ覚えていないんですね。で、どんなことを書いていたかと読んでみますと、我が文章ながらというか、我が文章らしくというか、実に内容のない文章であきれました。(困ったもんだ。)

 よーするに、ざっくり言えば、私としてはあまり読んだ作品に感心しなかったんですね。(もちろん言うまでもなく、これは極く個人的な感想であります。)
 でも考えてみれば、こんなことは多分よくあることでありましょう。
 というのは、実は、今回冒頭の長編小説を読んで、私はかなりこの作家を信頼できる方じゃないかなと思ったのであります。

 信頼できる方というのは、私としては、現代の文学的課題に対して真摯に取り組んでいる方じゃないかということであります。
 では「現代の文学的課題」とは何か、と正面から問い詰められると、私としては少し困るのですが、私のアバウトな頭でぼんやり思っている一つのことを述べますと、「近代的リアリズム」のことであります。

 これは別に私のオリジナルではありませんが、よーするに日本では多分明治時代以降追求されてきたであろう、小説の伝統的なリアリズム描写手法がそろそろ終焉を迎えているのではないかということであります。

 だから最先端の小説家は、例えば村上春樹は、作品の伏線をちっとも回収せず、その上唐突に「騎士団長」を登場させたり、カズオ・イシグロは、あえて展開上重要な挿話を書かなかったり、語り手がそもそも信頼できない視点であることを暴露しながら物語を進めたりしていると、私は思ったりします。

 そう思って本書を読んでいくと、作品冒頭で、いきなり主人公の自宅の玄関のドアの鍵穴がなくなったりしています。(ドアの鍵じゃなくてドアの鍵穴が消えちゃうんですね。)そしてその後ホテルが消えたり、人が消えたり、また犬がしゃべったり、と。

 それでは、それは例えば安部公房が書いていたようなシュールリアリズムなのかと考えれば、それもどうも違うような気がします。(むしろ、筒井康隆のある時期の息苦しい小説に近いような気がします。)
 本作の方が、なんと言いますか、「不思議」が身近なんですね。
 うーん、これは一体、私たちをどこへ連れて行ってくれる作品なのだろうかという、少しのイライラ感と、そしてやはり期待感を抱かせてくれる展開であります。

 と思って読んでいると、わたくし、ふっと浮かぶものがありました。
 作品の舞台は鎌倉ではありませんか。
 私は関西人なので、鎌倉と言っても1、2回観光で行った程度しか知りませんが、例えば西岸良平の『鎌倉ものがたり』なんて不思議な漫画がありました。(映画化もされましたね。)
 先日ぼーっとNHKを見ていたら、「不思議の町・鎌倉」みたいな番組をやっていました。

 日常生活の中に怪しいものが普通に紛れこんでいて、そんな中に住み慣れていくと、リアルのほうがおかしく面白くなく、記憶は曖昧が正しく、そして、怪しいもののほうにのみ共感できる、そんな生き方の世界が広がっていくような気がします。

 そもそもタイトルの「末裔」というのは、時代が経つほどに様々なものが衰退し矮小化していくと言うことでありましょう。
 ただそれを、価値判断して昔はよかったとノスタルジックに捉えるのではなく、その前の段階として、とにかく描いてみる。

 私は本書の展開(筆者が連れて行ってくれる世界)を、そのようなものと読んでみました。私にとって最も共感できる読み方でありました。

 ただ、終盤、主人公が長野県の佐久市に言ってからの展開は、私としては今ひとつ納得できませんでした。(私としては、「シュール」のイメージが軽薄な感じがしました。)

 私は上記に、近代的リアリズム描写が終わりかけているその先の展開と書きましたが、それはいわゆる因果関係から離陸した世界を描くということであります。
 そして、その世界で物語を進めていくというのは、全く頼りとするものがない(少なくとも既存のものは皆無の)独自の説得力を追求すると言うことで、それは大いに困難な作業ではないかと思います。

 いえ、だからこそ私は本書の作家を、ポスト近代的リアリズムを正面から模索している意欲的な作家ではないかと大いに思ったのであります。

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Last updated  2022.11.13 11:57:22
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