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2022.12.18
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カテゴリ:昭和期・三十年代
  『死者の奢り・飼育』大江健三郎(新潮文庫)

 多分高校三年生くらいの時に私は一度本書を読みました。
 あの頃、大江健三郎というのは、多分文壇の「アイドル」みたいな存在じゃなかったかと思うのですが、さらに考えると、いわゆる文学というものの価値や評価が、今とは全然比べものにならない時代だったという気がします。

 例えば大江健三郎や、安部公房といった「文壇アイドル」が新刊小説を出すというのは、一種の社会的事件みたいなものだったように思うのですが、それほどでもなかったのでしょうか。
 いずれにしても、現代とは隔世の感があります。

 さて、高校生の私は、その頃本書を含め、新潮文庫のラインナップにあった大江作品をかなり読んだ記憶があるのですが、分かって読んでいたのだろうかという思いは、ずっとありました。
 もちろん今でもしっかりと分かっていない(この度の読書のことですね)くらいですから、完璧な理解なんてことを言っているわけではありません。

 ただ、この度、うん十年ぶりに本書を再読して、多分高校生の頃の私は、収録作品の「死者の奢り」や「他人の足」「人間の羊」などの主人公に対して、かなり感情移入をしていたことを思い出しました。

 例えばこの3作品だけに絞っても、これらの主人公の無力感、喪失感、徒労感など、マゾヒスティックなまでの卑屈さは、若者には共感され得る主題であると、なんだか自分自身のその頃の感覚がふわっと立ち上がってきたような感覚と共に納得できました。
 なるほど、そういうことだったんだな、と。

 例えば村上春樹のデビュー作から始まる「鼠三部作」を読んだ時、私がこれらの作品から一番に強く感じたのは、やはり喪失感ではなかったか、と。
 そう考えれば、喪失感や徒労感を語るデビュー作は今まで多くあろうし、またそのことに大いに納得がいきます。
 この感覚は、相対的弱者であることが多い若者にとって、社会性への入り口であるのかもしれません。

 と、久々の再読で私はそんなことを感じたのですが、実は、この短編集で一番感心したのは上記3作ではなくて、「飼育」でありました。

 「飼育」のストーリーは、なんとなく覚えていました。(あらすじにしやすいストーリーなので、筆者に関係する文章を読んだ時に、何度か記憶を上書きしたのかもしれませんが。)ただ今回驚いたのは、「完璧」という言葉がつい出てきそうな文章力でありました。

​ しかし、黒人兵はふいに信じられないほど長い腕を伸ばし、背に剛毛の生えた太い指で広口瓶を取りあげると、手元に引きよせて匂いをかいだ。そして広口瓶が傾けられ、黒人兵の厚いゴム質の唇が開き、白く大粒の歯が機械の内側の部品のように秩序整然と並んで剥き出され、僕は乳が黒人兵の薔薇色に輝く広大な口腔へ流しこまれるのを見た。黒人兵の咽は排水孔に水が空気粒をまじえて流入する時のような音をたて、そして濃い乳は熟れすぎた果肉を糸でくくったように痛ましくさえ見える唇の両端からあふれて剥き出した喉を伝い、はだけたシャツを濡らして胸を流れ、黒く光る強靱な皮膚の上で脂のように凝縮し、ひりひり震えた。僕は山羊の乳が極めて美しい液体であることを感動に唇を乾かせて発見するのだった。​

 長い引用になりましたが、書き写しているとどうしても切るところが見つからず、この恐ろしく豊饒なイメージに惚れ惚れとしてしまいました。
 特に感心したのは、本作は文庫本で70ページほどの短編ではありますが、最後までこの濃厚な文章で描ききったことであります。
 ひょっとするとピントはずれなのかも知れませんが、一つの虚構世界を作りきったという意味で、私は谷崎潤一郎の『春琴抄』を頭に浮かべました。

 そしてその後、改めて確認したのは、これがいわゆる文壇への登竜門である芥川賞の受賞作であるということでした。
 こんな「完璧」な文章を書く大江健三郎は、まさに文壇の新人であったのだと思うと、なんだかくらくらするような感覚を味わいました。

 そんな再読体験でした。
 改めて言うには及ばないことなのかも知れませんが、小説とは、結局の所この文体の力なのだなーと、つくづく考えた体験でした。

 ただし、6作収録されている短編小説の後ろの2作において、筆者は文体的苦悩をしているようだということも感じました。
 それは、極めて独自性の高い文体を持ってデビューするということは、その後の成長にとっての最初の「敵」が、まさにそれであるということでありましょう。

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Last updated  2022.12.18 18:27:37
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