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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2023.02.12
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  『わたしがいなかった街で』柴崎友香(新潮文庫)

 この作家も、わたくし初めて読むのですが、新潮文庫の裏表紙にある「宣伝文」の最後に、「生の確かさと不思議さを描き、世界の希望に到達する傑作」とあって、まー、この文章なんかはいわゆる「仲人口」でしょうから、そのまま鵜呑みにしていたわけではありませんが、でも、読みながら、どの辺から「世界の希望」に連れて行ってくれるんかなーと、少しドキドキはらはらしながら読みました。

 この引用文の前半の部分については、本書を読み始めてわりと早い段階で納得できる書き方になっていたんですね。例えば、こんな感じ。

​ 長い間そうだったが、このところ特にまとまらない感じがする。人と話したり家にいたりテレビを見たり電車に乗ったり、勤務先でパソコンに向かって文字と数字を入力したり電話を受けたり、それから先週のことやおととしのことや前のことを思い出したり、そういうことが自分の一日の中に存在するのは確かだが、それらが全体として現在の「自分の生活」と把握できるような形に組み上がっていなくて、ただ個々の要素のまま、行き当たりばったりに現れ、離れ、ごみのようにそこらじゅうに転がっている。​

 いかがでしょう。主人公のこの感覚は、かなりストレスのかかった神経症的な状況の説明で、さらにざっくり「文学的」にまとめると、「存在の不安」とか「自同律の不快」とかで言い換えることのできるものじゃないかなと思います。(ということは、文学の普遍的テーマ、あるいは少し意地悪に言えば、よくあるパターン。)

 で、ここからどう「世界の希望」につなげていってくれるのか、という、期待と不安ですね、それを持って読んでいたわけですね。
 でも、まー、よく考えたらこの「宣伝文」の「世界の希望」という表現がそもそも、なんのこっちゃかよくわかりませんねー。あまりにアバウトなまとめ方で、ほぼ何も言ってないのに同じでありますわねー。まー、そんな言葉に引っ張られる方もよくないのかもしれませんがー。

 というわけで、私は「世界の希望」はわかりませんでした。
 ただ、この作家が描こうとしているものについては、多分こんなことじゃないかなという感じがしました。それは、上記に私がこれもかなりアバウトにまとめた「存在の不安」についてであります。

 例えば本書には、圧倒的な分量で様々な土地や場所のかなり細かい描写があります。そしてその様々な土地や場所で、主人公は存在論的不安に戸惑っているわけですね。
 ただ、そこに描かれているかなり「客観的」な風景描写は、無機質に放り出されているように描かれながら、その量の異様な多さが、読者の感覚に質的な変化、つまり、「不快」なだけではない、何というか、透明感とか、懐かしさなどを感じさせるものになっているようです。

 これこそが、言ってみれば、この作品の第一の魅力のように想います。
 ただそれは、かなりマイナスなものとも紙一重で、まず、なんと言っても話の展開が退屈であること。そのクールな描写の先に意味づけがないので、読み進めていって結局肩透かしを食ったような感じになってしまいます。
(本書には、本作の後に27ページの短編が収録されているのですが、基本的には同タイプの小説で、ただこのタイプの小説は「量」がかなり大切と思われ、30ページ足らずでは何のことかよくわからなく終わっているような気がしました。)

 ただし、筆者は作品中にけっこうたくさんの仕掛けも作っていて、それが肩透かし感をかなり薄めてくれてもいます。(そんな個所は、いってみれば普通の小説で、ただ、その前後が無機質っぽい描写だから、読んでいてほっとしたりします。)

 海野十三の日記の引用とか、主人公が離職にいたるエピソードとか、有子の父親のキャラクターとか、いろんな工夫が見られるのですが、読み終えて結局の所よくわからなかった(初読だし読解力に少々難のあるわたくしですので)のが二つ残りました。

 一つは、終盤にその理由について少し触れたところはあるのですが、主人公がなぜ世界の様々な戦場の残酷な場面を見続けるのか、それに惹かれる本当の理由であります。

 もう一つは、中盤から存在感を増してくる葛井夏という女性について、主人公の女性との違いがよくわからないことであります。
 あるいは、これは意図的に違いなく描いている、つまり、小説的には、同一存在であるとしているのか、そのあたりがよくわかりませんでした。

 ただ、こんなある意味何も起こらない小説というのは、いかにも「小説的」といえば「小説的」でもあります。(よかれ悪しかれ「文学的」)
 本作はそれでも(上記に記したように)日常生活の中の裂け目のようなものは描かれているのですが、この何も起こらない小説の「本家」みたいな作家は、たぶん保坂和志だと思います。
 この作家の小説は、本当に何も「事件」が起こらず、しかし、かなり「玄人」っぽいファンが多いことで有名です。
 本書も、似てるような似てないような、そんなところが、まー、魅力のひとつでもあるのでしょうかね。
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Last updated  2023.02.12 17:53:20
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