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カテゴリ:明治~・詩歌俳人
『猫の客』平出隆(河出文庫) えー、本読みの先輩に薦められた本です。初めて読む作家です。詩人でもある作家だそうです。なるほど、研ぎ澄まされたような文章力が、あちこちの描写から感じられそうであります。 しかし、実はわたくし、本書を薦められたとき、少しいやな予感がしたんですね。 なぜかというと、タイトルですね。「猫」とありますでしょ。 実は「猫話」は、わたくしの最も苦手とするお話なのであります。 たぶん、以下の文章にそんなことを説明するんだろうなと思いつつ、そしてその説明はたぶん、私の偏見にまみれているんだろうなと思うのがかなり重苦しいのですが、まー、やってみますね。 話題を大きく別に振って始めます。 太宰治の短編小説で、私がとても好きなお話に「鴎」という作品があります。 作者自身っぽい主人公が、ひたすら屈託としているだけの話なんですが、その作家らしい主人公が、編集者らしい男の人と話をします。 最近仕事がんばってますかとか、誰かのよい作品を読みましたかなどと聞かれても、主人公はグズグズとして、景気のよい返事ができません。 そんな会話が続くのですが、最後に主人公は、あなたが小説を書くにあたって最も大切にする信条は何ですかと尋ねられると、この問にだけは打てば響くように答えます。 「悔恨です。」と。ここだけ、少し本文を引用してみますね。 「悔恨の無い文学は、屁のかっぱです。悔恨、告白、反省、そんなものから、近代文学が、いや、近代精神が生れた筈なんですね。だから、――」 いかがですか、いかにも太宰らしいと言えば太宰らしい展開であります。 ところで、この度報告する本書にも、こんなことが書かれてあります。始まってすぐのあたりのところですが。 猫好きというものが親しい友人たちの中にもいて、その寵愛ぶりを目のあたりに、呆れたことがあった。身も心も猫に捧げつくし、恬として恥じるところがない、と思われる場面もあった。 でもこのすぐ後に、自分は「猫を身近に知らなかった。」と続いてその後、まー、わたくしから言わせると(ということは偏見に満ちた言い方で申し訳ないながら)、本書は「恬として恥じない」猫話になっていくんですね。 もちろん細かい違いはあります。 例えば、主人公とその妻が愛する猫は、自分たちで飼っている猫じゃないんですね。お隣の家族が飼っている猫なんですね。その猫が、いかにも猫的に主人公の家にも我が物顔でやって来て、主人公や、特に奥さんは、「身も心も」とは言いませんが「心」はかなり猫に「捧げ」ています。(でもこの隣家の猫という設定に、一つの客観性が生れます。) しかし猫話は、どうも私が思うところ、ほぼ「恬として恥じなく」なっちゃうんですね。 そんな意味で言えば、同じペットでも、わたくし「犬話」はさほど嫌いではありません。犬話の場合は、展開の多くが犬と一緒に何かに取り組むというパターンになり、それには違和感がありません、わたくし。 でも、猫ってどうですか。 そもそも人間と一緒に何かに取り組むという種類のペットですか。 猫話のほとんどは、人間とは本来没交渉な猫独自の行動に、人間が一方的に感情移入して、あたかも普遍性があるかのごとき意味づけを勝手にしているだけじゃないですかね。(あ、言いすぎかな) と、言うわけですが、本書の帯のところに「『吾輩は猫である』と並び、世界中で愛されている猫文学」とありました。私としては『我が輩は猫である』を「猫文学」とまとめる視点には大いに不満があります。 でも、「猫文学」と呼ばれるお話の類いが、世の中に多くあることについては認めるにやぶさかではありません。 むしろ、私はその視点で読み始めるべきであったと反省・悔恨いたしました。 ちょっとしんどかったです。
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Last updated
2023.03.12 08:12:32
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