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カテゴリ:昭和期・後半女性
『海』小川洋子(新潮文庫) 知人に薦められて本書をネット経由で手に入れました。私は、同筆者の本は今までに何冊か読んでいます。 それはそんなにたくさんとは言わないまでも、短編集なら、芥川賞受賞作の載っている短編集や、刺繍する少女の話の本や、なにか確か瞼を焼くような話だった本や、などを読みました。 長編小説は、例のベストセラーになった記憶障害を持つ数学者の話とか、河馬を飼う話とかを読みました。 また、小川氏は関西にお住まいなので、以前ある大学で行われた氏の講演会にも、わたくし行きましたよ。とても興味深い講演会でした。 ということで、久しぶりという感じは少しありましたが、本書を読み始めました。 七つのお話が収録されています。 適当な順番で三つほど読んだ後、ふと目次に戻って見ていると、あれ、このタイトルの話は以前読まなかったかなという気がしました。で、その話の冒頭を少し読んで、あ、この話は間違いなく読んだことがあると気づきました。 じゃ、一体どの本で読んだのか? だって、ほかの話は初読なのに……。 そこで、書棚の奥をごそごそしてみて、二つも驚いたことがありました。 ひとつは、我が家には小川洋子の文庫本が20冊以上もあったこと。 もう一つは、その中にこの『海』の本もあり、明らかに私が読んだ後が残っていたことでありました。 ……うーん、改めて、我が記憶の信頼できないことが証明されたようで、なんとも、いわく言い難く……。 ということで、我が記憶力の不明を恥じるきっかけとなった短編小説は、「バタフライ和文タイプ事務所」であります。 本短編集の中では最も異色の、というより多分、いわゆる「小川洋子調」諸作品のほとんどとは甚だしく毛色の変わった小説であります。 私は、小川洋子の小説を読んで、これほど声をあげて笑ったことはありません。(以前読んだときはどうだったのか、私の情けない記憶力ではすでに忘却の彼方であります。) ところで本書は興味深い内容になっていまして、七つの短編小説の後ろに、筆者のインタビューが収録されています。そしてそこで、筆者自身が、収録作品の解説めいたことを述べているんですね。 そして、その後ろに、別の方の本来の文庫本らしい解説文がある、と。 たまーに、筆者の前書きや後書きのある文庫本がありますが、その類ですかね。でも、インタビューは珍しく、また、その内容が、各短編のかなり丁寧な「メイキング」になったりしていて、収録作品読解がとてもしやすい、と。 わたくし、上記に触れた小川氏の講演会に行った時も感じたのですが、とても誠実な感じの人だなあ、と。本書の「インタビュー」も、その延長なのかしら、と。 ……えー、ちょっと話が横ずれしました。 「バタフライ和文タイプ事務所」の話でありますが、インタビューによりますと、この短編は官能小説執筆を依頼されて作った、と。 えー、本当かなー、と思いませんか? 小川洋子に官能小説を書かそうなんて、そんなことを、編集者は考えるんでしょうか。 でも、誠実な小川氏は、果敢にそれに挑戦するんですね。この辺が、実に真面目、誠実でありますねー。 で、出来上がった作品を、私なんかは、ぎゃははは、と声を出して笑いながら読むわけです。 でもそれは、私が変なのではなく(たぶん)、小川氏がそれを狙ってこの作品を書き上げたからであって、事実、出色の日本文学には類いまれな上質な喜劇小説になっています。(わたくしが思うに、日本文学の上質な喜劇小説は、初期の漱石、中期の太宰治、そしてその師であった井伏鱒二の何作かの短編、後はすぐには浮かびません。) という、出色異質の短編小説なのですが、それ以外の作品は、打って変わって、「正調」小川節の短編群であります。 残り6作中、2作はきわめて短いスケッチのような作品で、もちろんそこにも「小川節」は読み取れないわけではありませんが、とりあえず、この2作は外して、私の好みで上位2作を選びますと、……えー、こうなるかな、と。 「ガイド」「海」 さっきから「小川洋子調」とか「小川節」とか、少しふざけた感じの表現をしてしまいましたが、私は、小川文学の文学性の高さを保証している属性は、この二つではないかと思っています。 残酷とエレガンス 漢字とカタカナのバランスの悪い取り合わせでありますが、「エレガンス」は辞書の意の通り「優雅・気品」でしょうか。 また「残酷」の方は「奇妙」あるいは物体としての「奇形」でもいい気がします。 残酷(奇妙)さを内に含んだ、あるいは残酷(奇形)であるが故の「優雅・気品」という印象が強く、小川氏の小説が、フランスでよく読まれるというのは、さもありなんと、感じてしまいます。 ただ、本書収録作品は、残酷(奇妙・奇形)はありながらも、より前面に出ているのは、いわゆる様々な社会的弱者への慈しみの感情であり、それが大きな作品の魅力になっています。 加えて、上記に私がその中でも2作品を特に選んだのは、これらの作品には、筆者の虚構に対する信頼と自信めいたものが強く描かれていると感じたからであります。 例えば、それは「ガイド」においては「題名屋」という初老紳士の存在であります。 それは、終盤、少年が紳士にこの一日に題名を付けることを願う場面に集約され、私はこの場面を思わずうなりながら読んでいました。 一方「海」においては、「小さな弟」と「鳴鱗琴」という設定もさることながら、そこに持っていくまでの筋道に、私は戸惑いつつも感心してしまいました。 この大胆すぎる話の展開は、もちろんきわめて独創性の高い筆者の文才の生み出したものではありましょうが、それを描くにあたって、筆者が虚構の力というものを強く信じていることが、ひしひしと感じられるようでありました。 このようにして、作者は、虚構の力を信頼し自信をもって残酷とエレガンスを描き、そこに我々読者は、しっとりと人生の静かな悲しみの感覚を読み取る、これこそが小川文学の大きな魅力だと、私は感じるものであります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.01.13 10:36:12
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