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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2024.07.14
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『ハンチバック』市川沙央(文芸春秋社)

 本作は2023年後期の芥川賞受賞作ですね。
 受賞が決まったとき、大きな話題になりましたね。なぜ大きな話題になったかといいますと、筆者がかなり重度の身体障碍を持った方で、作品の主人公の女性の身体の設定が、ほぼ筆者に重ねて描かれていたからですね。
 そして作品に、現代日本社会が身体障碍者をどう扱っているかという姿に対し、様々なハードでビターな問いかけが描かれていたからであります。
 マスコミなどに主に取り上げられていたのは、原文でいえばこんな個所ですね。

​ 本に苦しむせむし(ハンチバック)の怪物の姿など日本の健常者は想像したことがないのだろう。こちらは紙の本を1冊読むたび少しずつ背骨が潰れていく気がするというのに、紙の匂いが好き、とかページをめくる感触が好き、などと宣い電子書籍を貶める健常者は呑気でいい。​

 こんな個所が、まー、マスコミ的に衝撃だったわけですね。
 私もそんなマスコミの記事を初めて読んだ時は、ちょっと衝撃ではありました。
 しかし思考の根本が少し緩んでいる私は、それ以前から何にも知らずに顰蹙ものの我が思考の捻じれや歪みを人様から指摘されることが多々ありましたので、今回も顰蹙ものながら、あーまたやってしまっていたのか―、的の感情が、まず、ありました。

 でもやはり、今回本書を読むにあたっては、少々「覚悟」も持って取り組んだのですが、……とっても面白かったです。
 いえ、もちろん、身体障碍が中心テーマにあるお話ですので、笑うような面白さではもちろんありません。いわば、小説的巧みさが全編から感じられるような面白さでありました。

 しかし、重度の身体障碍を中心テーマとし、「各論」的には(1)社会の差別意識(2)障碍者の性などを描きながら、我がごとながらなぜ「重い」感じがしなかったのか、少し不思議で、あれこれ考えてみました。

 まず、すぐに思いついたのは、主人公の思考の流れが極めて理性的で自然であるからじゃないか、と。
 例えば、主人公の女性は「子どもを宿して中絶するのが私の夢」だと書かれています。別の個所には「胎児殺し」とも書かれています。
 でもこの夢に至った経緯が説明されてある個所は、飛躍も無理もなく極めてクリアであります。

 〈妊娠と中絶がしてみたい〉
 〈私の曲がった身体の中で胎児は上手く育たないだろう〉
 〈出産にも耐えられないだろう〉
 〈もちろん育児も無理である〉
 〈でもたぶん妊娠とか中絶までなら普通にできる。生殖機能に問題はないから〉
 〈だから妊娠と中絶はしてみたい〉

 そしてもう少し先の本文に、同じ地域に育った幼馴染たちの成人後の姿を想像しながらこう書いてあります。

​ 私はあの子たちの背中に追い付きたかった。産むことはできずとも、堕ろすところまでは追い付きたかった。​

 上記に、マスコミで話題になった紙の本についての記述を取り上げてみましたが、こちらは直接の話題にはなりませんでしたが、こんなことも書かれてあります。

​ 博物館や図書館や、保存された歴史的建築物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこにずっとある古いものが嫌いだ。壊れずに残って古びていくことに価値のあるものたちが嫌いなのだ。生きれば生きるほど私の身体はいびつに壊れていく。死に向かって壊れるのではない。生きるために壊れる、生き抜いた時間の証として破壊されていく。そこが健常者のかかる重い死病とは決定的に違うし、多少の時間差があるだけで皆で一様に同じ壊れ方をしていく健常者の老死とも違う。​

 さて、私は上記に、本書は小説としてとても「面白い」と書きました。しかし、この小説の文学性が、このきわめて本道的な理論展開にあるとは、実は、思っていません。

 私が、小説的仕掛けの巧みさと、文学的な佇まいを感じたのは、作品後半、「田中さん」とのでき事が中途半端に終わり、瀕死の重傷となり入院し、そこでまた「田中さん」と言葉を交わす場面を中心に描かれている一連の「私」の心理描写にあります。

 それは、冷静なリアリズムに則りつつ、加虐的かつ自虐的な思考や追い詰められた強靭な意志などが溢れ出した姿を、言葉を選んで選んで描こうとした部分です。

 前半のきわめて理知的な思考形態で整理しようとしながらも、そこからはみ出す心理を、何とか言葉で繋ぎとめようとしている描写が(個人的にはまだ十分につかみ切れていない感じもしますが)、すばらしい、と。

 そして、作品終盤。
 この部分も、少し芥川賞受賞時マスコミに取り上げられていました。
 「聖書」からの引用が少し続き、最終盤、ここに至るまでの内容をすべてひっくり返すような展開がもう一山用意されて、そして終わります。
 この部分をどう評価するのかが、少しマスコミ評にもありました。

 はばかりながら、私は、どちらも小説的に傷になるものではない(大きな効果のあるものでもないにせよ)と思いました。達者さを感じました。

 あわせて、こういう「特異」な作家が、「特異」な主人公の姿に自分の現実を重ねて読めそうな作品をひとつ書くと、次作以降をどうするのかという不安がありそうですが、これについては、幸いにことに、現代日本文学は、本件と全く重なるというわけではありませんが、きわめてすぐれた「先達」を持っていますね。

 ちらっと何かで読みましたが、本書の筆者も、好きな作家であるようですね。(当たり前かー。)
 「大」大江健三郎氏であります。

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Last updated  2024.07.15 08:37:53
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