≪公証所にて≫
「xxx公証所」と書かれた看板を横目に、車は敷地内に入った。
着いてしまった・・・
陳社長が先に下りた。
「下ロ巴。(下りるよ)」
私は機械的に車を下りた。
陳社長が建物の方向へ歩き出す。
私は止まったまま。
陳社長が気付いて戻ってきた。
「来(さあ)」と促す。
私は無表情で歩き出した。
こんな所に来てしまった…
どうなるんだろう…
逃げたいっ…!
走って逃げようか…
止めた。
多分、連れ戻されるだけだ。
どうしよう…
足は勝手に前に進んでいく。
「行きたくないっ!」って泣いて言う?
いや、それも…
私が、外国で、中国で、こんな事に巻き込まれて…
公証所なんて、来た事もない所に連れて来られて…
誰か助けてっっ!!
…でも、
両親は知らない。。
会社も知らない。。
台湾人上司も誰も。。
ぞっとした。
誰も助けになんか来れない。
なすすべなく、一つの部屋に入る。
中に職員らしきメガネで七三分けの男性がいるのがぼんやり見えた。
陳社長が何か話して、
職員らしき人が「身分証(身分証明書)」と言ったのが聞こえた。
陳社長が「NI把護照拿出来(パスポートを出して)」と、いつものように優しい声で言った。
私は動かなかった。
陳社長が、もう一度言った。
私は、窓の外をぼんやり見ながらパスポートを出して渡した。
「是本人(本人だ)」と言うような声が聞こえた。
何をどうするのか全く分からず、人形みたいにジッと立ちつくして。
陳社長と知り合った頃を思い出していた。
最初は量産テストの時だったっけ…
金型のせいじゃないけど、生産がうまくいかなくて、
夕方5時くらいから会社に来てもらって8時くらいまでテストに立ち会ってもらったな…
申し訳ない事したけど、笑って「何でもない」って言ってくれた。
新しいレストランが出来たって誘ってくれて、一緒に御飯食べたな。。
上海に行きたいって言ったら、運転して連れて行ってくれたっけ…
渋滞に巻き込まれて大変だったな…
風邪引いた時、お見舞いくれた…
あの喫茶店にも、よく連れて行ってくれたな。
ビンシャー2杯も食べたら、呆れてたっけ…
他にも沢山…
すごいお世話になった…
陳社長が職員に書類を見せて、職員がパソコンで何か打ち始めた。
プリントアウトして、陳社長に何か言った。
陳社長は私の方へ振り返って紙を渡した。
ここに「譲渡書」及び「委任書」を本人が同意したと証明する
右下にサイン欄があった。
「来,簽字(さ、サインして)」
陳社長が私にペンを差し出した。
多分、これが分かれ目だ…
と思った。
これにサインしたら、私の名義貸しが成立する…!
サインしたら、また今まで通りに「朋友」でいられるだろうか…
私はペンを受け取った。
ホントにお世話になった…
ペンをグッと握った。
でもさ…!!!
5秒…
「不簽…(サインしない…)」
と口から出た。
陳社長が「え?」と聞き返した。
もう一度言った。
「我不想簽…(サインしたくない…)」
顔を上げて、前を見つめた。
陳社長、悪いけど。
私、筋の通らん事に、義理立てはでけへんわ。
つづく。
この話はシリーズ物になっています。
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