その日は丁度、雨でした。
傘を差して皆でおしゃべりをしながらバス停に着くと、
「じゃああなた達、しっかり先生のナイトを務めなさいよ!」
女性陣が笑顔で言い渡し、その他の生徒と共に
それぞれの方向へ帰って行きました。
残ったのは私と5人の護衛。
彼らが妙な高揚感に包まれているのは、私にも感じられました。
暫くしてバスがやってきて
「さ、しぇんしぇえ(先生)!」
苗さんが先にステップに駆け上がり、私にサッと手を差し出す。
「・・・大丈夫ですよ^^;」
私は自分で階段を上りましたが
「しぇんしぇえ、どうか気をつけてぇ!(心配)」
・・・^^;
「はい、有難うございます^^;」
バスは適当に人が入っていました。
空席はバラバラに数席ありました。
その内の1席を、苗さんが素早く確保し他の若い生徒達と
「どうぞ先生!」
「いえ、皆さん座って下さい(汗)」
「いいえ、しぇんしぇえがぁ~~~!!(必死)」
他の乗客が『何事か!?』と振り返って見たので、慌てて座りました。
私 「皆さんのカバンを持ちますよ」
生徒達 「いいえ、大丈夫です!」
私 「他の空いている席へ皆さん座って下さい」
生徒達 「いいえ、大丈夫です!」
生徒達は重そうな斜め掛けのカバンを持ったまま
私の席の周りに立っていました。
私、めっちゃ年寄りみたいやわ(汗)
・・・いや、子供かな?(汗)
こんなに甘えさせてもらっていいのだろうかと
落ち着かない気持ちでしたが、しかし彼らの気持ちを
無下にしまいと、素直に従う事にしました。
私のバスの切符代は、どうするつもりなのだろうと
思っていましたが。
最初、苗さんが払おうとしたので
「いいえ大丈夫です」と私は財布を出しました。
苗さんは何度か「いえいえ」と粘り、
最後は少しためらった後、お金を引っ込めました。
他の生徒達も、自分の分は自分で出しました。
意地悪なようですが、私は彼らを冷静に観察もしていました。
中国人の誠意とは、どれほどのものか。
外国人として確認してみたい気持ちがありました。
なのでバス代は自腹だった事に
彼らも身銭を切るまでのつもりはないのね・・・
心の中で思いました。
しかし、そんな態度はオクビにも出さず
バスの中で生徒達と世間話をしていると、ある事に気がつきました。
「・・・あれ?(バス内を見回す)王さんと唐さんは?」
「彼らは、外です」
「・・・外?」
「バスの後ろをついて来ています」
生徒達はそう言って、バスの後ろの窓を指差しました。
・・・後ろ??(~~)
どういう事かと立ち上がって、バスの後ろの窓を見に行くと
・・・まあ、何と!
王さんと唐さんがエンジン付き自転車(バイクではない)で
バスに着いてきているではありませんか。
雨の降っている中、カッパを着て。
ちょっと、これは・・・( ̄Д ̄;)
護送車輌でもあるまいし
いくら何でも、これはやり過ぎだと思いました。
元々、私を送るのに5人もついてくる必要はありませんし
ナンセンスに感じていました。
そんな事をせずとも約20名いる生徒達が
小銭を出し合ってカンパした方が余程合理的な気がしていました。
しかしながら生徒達の事情や気持ちを考えると
そんな事は口が裂けても言えず。
私は、雨に打たれながら着いてくる王さん達を
気の毒に思うばかりでした。
一方、バス内の苗さん達を見ると
まるで重大任務を遂行しているように誇らしい表情をしています。
折角、一生懸命してくれているのに
下手な事言うと、彼らのメンツを潰してしまうかも・・・
なので私は、
誤魔化すように微笑んで、再び座席に座りました。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
そうして、その日は無事に私は寮に帰り着き
生徒達と寮の門の所で手を振ってアッサリ別れました。
中に入ってもらってお茶の一杯でも入れたかったのですが
それは出来ませんでした。
留学生寮の部屋には、外部の中国人は入る事ができなかったからです。
また、時間も夜の11時近くになっていました。
引き留めて彼らの帰りを遅くする事もできませんでしたから。
寮内の中庭を、一人で部屋へ向かって歩きながら
胸が詰まるような気持ちでした。
もう、こんな事してもらっちゃいけない。
そう思いました。
TAXIで帰るなんざ、ワケないのです。
そう、25~30元(約300円)くらい私には何でもないのです。
しかし「TAXI代が高い」と言ってしまった手前
「次からTAXIに乗って帰りますから大丈夫です」とは言いにくい。。
ますます気が重くなってきました。
罪悪感すら湧いてきました。
なので、そんな気持ちを振り払うように
まあ、どうせ・・・
その内、飽きるでしょ!
そう思う事にして、部屋へと走りました。
つづく。
*このお話しは、1995年上海での出来事です。
↑ よろしければ是非、一回押してやってください。。
何気なく言った私の話で、事が大きくなってしまって(><;
バスの外に王さんと唐さんを見た時には、本当にビックリしました・・・
次回も、この「送り」の話は続くのですが
私が思うように「その内、飽きて」くれるのでしょうか?
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