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カテゴリ:CLASSIC
Vol.1からの続きです。
可能でしたら、Vol.1からお読みいただけると幸いです・笑 クラシックギターの持つ、致命的欠点・・・・ その致命的欠点というのは、生演奏の際の「音量」です。 ピアノを始め、ヴァイオリンや管楽器などと比べて圧倒的に音量が劣るのです。 これが、大きなホールでたくさんの人を集めて演奏会が行われない理由なのですね。 現在でこそ、音響設備としてホール、そして機材とも進化しているので、大ホールで たった一人演奏することも多いのですが、100年も200年も前に、そんな設備が あるわけもなく、そういった人の集まりにくい楽器のためには、なかなか大作曲家達が 重い腰をあげなかったのも当然の事かもしれません。 そこで、その状況を憂いたのが、山下和仁という当時19歳だったギタリストなのです。 ギターに大曲が存在しないことを憂慮していた山下さんは、ここで、オーケストラの名曲を ギターで再現出来ないかと考え、もともと移調がしやすいピアノ曲を原曲に持つ、展覧会の絵の 編曲に取りかかります。演奏会用の大曲が、どうしても欲しい、そしてギターという楽器の 可能性を高めたい、そんな一心だったそうです。 そこからは苦労の連続だったらしく、基本はピアノ譜としながらも、一般的に耳に馴染んで もいるオーケストラ版も視野に入れた編曲作業になったそうです。 ギターの演奏会で、組曲などを演奏する際は、その曲と曲のインターバルで調弦を行います。 特に低音の5弦と6弦を上げ下げする事で、音域の幅、そして表現力の幅を広げます。 が、しかし、それと同時に、この調弦という行為そのものが、音楽の連続性を寸断させます。 ここは、演奏家にとって非常に悩ましい所な訳ですし、特に展覧会の絵は、目立った インターバルが無しで、35分~40分連続で演奏されます。 間と言えば、絵から絵へと歩を進める様子を表した、第一主題のプロムナードが それに当たるのですが、それでもほぼインターバル無しで演奏されます。 そこで、曲間での調弦を嫌った山下さんは、極力、調弦を避けるために、全ての弦を 半音下げるという荒技に出ます・笑。おかげで10曲のうち、確か1回か2回程度の調弦で 弾き切ることができたハズです。 ただ、半音下げただけでは、音域は変わらない訳ですが、調弦を少なくして、演奏し続ける には、この方法しかなかったそうで、音域については、自分の左手でカバーするしかなかった んですね。 それでも、どうしても調弦が必要な曲は演奏中に、感覚だけで調弦するというウルトラCまで やってしまいます。これも練習の為せる技なのでしょうが、それにしたって湿度なんかに左右 されますからねえ。もう、普通の演奏の限界を超えてます。(余りに激しい演奏でチューニン グせざるを得なかったという説もある・笑) ですから、おいら達、ギターを勉強していた小僧達にはどうやっても、左手の指が届かない様 なコードが出現したり、弦を抑える強い力を要求される場面がしょっちゅう出てきます。 これは、山下さんが、もともと手が大きく指が長いという身体的な特徴があったからこそ 出来た編曲法でもあって、これも他者が追随出来ない大きな理由の一つでもあるんですわ。 でも、そんなあり得ない、指使いをもってでも、この曲を再現したいという山下さんの情熱 には、もう尊敬を通り越して呆れるしかないのですわ。 そして、苦労を重ねた編曲が完成した後、編曲したは良いが、自分でも出せない音の練習に 取り組んだそうです。それが、いくつもの、ミラクルな演奏法を生み出し、その後の演奏活動 にも多大な影響を及ぼしたと言うことなんですね。 そんな形で発表された「展覧会の絵」のレコードは、山下さんご本人への影響どころか、 世界中に影響を及ぼし、各国のクラシックレコード大賞やら金賞を受賞し、日本のクラシックの レコードチャートでも一位になったハズです。 その演奏のあまりの凄さに、各国の評論家が「二人で演奏してるのではないか?」とか 「音を合成させているのではないか?」といった疑惑が当時、広がりまくったんですね。 確かにその頃は、YMOを始めとするコンピューターミュージックが盛んな頃でしたから、 そう思われても仕方がない時期だったかもしれませんが、モノはクラシックですからねえ。 そうそう、そんなインチキはしないでしょ?笑 その位、物議を醸したレコードでしたが、その後の山下さんの全世界での生演奏で、それが 合成でもインチキでも無いことが、証明されていきます。 恐らく、世界中のクラシックファンも、おいら達があの日、ギター教室で受けた様な衝撃が あったのだろうと想像します。 いや、レコードで聞いていたおいら達よりも、生演奏に触れたと言うことは、もっと強烈な 印象があったに違いないですよね? この大作の編曲に成功した山下さんは、この後に、 ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界」 ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ストラヴィンスキー 火の鳥 R.コルサコフ シェエラザード (with山下尚子) ヴィヴァルディ 四季 (withラリー・コリエル) を全て全曲演奏するという偉業を達成します。編曲上、デュオでの演奏もありますが、 全てCDも出ており、そして、そのどれもが息をのむ程の素晴らしさです。 ギターの大作が欲しいと願い続けた、山下さんの素晴らしい情熱が堪能できる名盤ばかりです。 ちなみに、こういった作品の発表の後に、全曲譜が色々と販売されたのですが、おいら達、 門下生は、どれか一曲くらいは!とその譜面を入手しましたが、譜面を見た瞬間にあきらめ ました・爆 もう、絶対無理!ってなくらいオタマジャクシの嵐なんですもん・・・(泣 指はちぎれそうだし、音なんか出やしねえ・・・笑 現在も活躍中の山下さんは、こういった大作の演奏は無くして、本来のギター曲の普及や、 アジアの新進気鋭の作曲家とのコラボレーションにより、世界との文化交流に力を注いで いらっしゃる様です。また、山下さんの為に書かれた楽曲と言うのも多く、作曲家の 作曲家魂に火を付けてしまう、演奏家でもあります。世界初演がもちろん山下さんに なる訳ですから、音楽界に歴史を刻み続ける男でもあると言えるかもしれません。 今や、先に挙げた様な、大作を演奏されないのは、年齢と共に訪れる技術の低下を予見して の事かも知れませんが、彼の残した驚異の音源は、永遠に残ります。 その革命的な演奏に託された思いをおいらは受け止めながら、これからの山下氏の活動が 精力的に行われる事を期待し、そして応援したいと思っています。 さらに、どうか、みなさん、この28年も前に録音された「展覧会の絵」は一度で良いから 聴かれる事をおすすめします。世界にたった一つしかない演奏ですから。 そして、数百年も前の世界の大作曲家達に、たった一人で挑んだ青年の軌跡と奇蹟を みなさんの耳と体で実感されるのも、音楽の楽しみ方の一つではないかと思います。 今回だけは、押し売りさせてください・笑 では、最後にもう一度、山下さんの幻の演奏を見ながらお別れです・笑 この演奏は10分ほどあって長いのですが、どうぞお時間のある時にでも、ご覧くださいね。 展覧会の絵のフィナーレなのですが、カタコンブ→バーバヤーガ→キエフの大門と続きます。 再生直後に、Vol.1でお話ししました、小指のトレモロ+主旋律演奏というのが出てきます。 小指と人差し指で交互にトレモロを維持する手法は、未だに驚嘆せざるを得ないです。 お、今、人差し指、ありゃ?今、小指だっ!ってな感じです。 小指、注-------------------目です!! そして、最後は超人的なスピードと破壊的なまでの音量でラストまで突っ走ります。 この「展覧会の絵」・・おいらが、忘れようにも忘れられない一枚のレコードなのです。 28年前、あのギター教室で受けた衝撃は今でも変わらないのです・・・・。 ♪♪展覧会の絵 Vol.2 長々とお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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