「ナナちゃん、早よー早よー!」
彼があたしを呼んでいる。
「ちょっと待ってよ、えっと・・・。」
あたしはバタバタと走りながら、
用意してきた書類をあわててさがしていた。
籍をいれるのだ、信じられない。
印鑑を落としそうになりながら、封筒から紙を出し、
うるさく催促する彼に渡した。
「そうそう、この字ぃ。俺が惚れた字や。」
たったその程度の、数少ないあたしの情報で、
彼はあたしをつかまえに来てくれたのだ。
この距離でこの期間で。
嫁にくる決心をしたあたしもどうかしている。
「愛してるで。」
まっすぐにあたしを見る力強い瞳に揺るぎのなさを感じ。
「それはどうも。」
あきれたふりをしてため息をついた。
もちろん心の中では、
あたしもよ。
なんて思いつつ。