カテゴリ:Midnight
昭和20年8月9日。
長崎市内から見て稲佐山の裏側で、一人の少年が蝉取りをしていた。 まさに「しぐれ」という言葉がふさわしい山いっぱいに響き渡る蝉の鳴き声の中、 少年らしいひたむきさと狩猟本能で蝉を追いかけ回していたという。 蝉はたくさん捕れた。 籠いっぱいになっても、少年の狩猟本能は満足しない。 新たな獲物を求めて息を潜めているとき、 山裾が光った。 刹那に、しかし鮮やかに。 そしてその光りに煽られたかのように、生暖かい風が少年を通りすぎていった。 そんな時でも蝉は鳴き続けていたという。 うるさいくらいに、自分たちの生を鼓舞し、 自分たちはここで生きていると訴えるかのように。 やがて少年は大人になり、この話をいろいろな人にしたそうだが、 誰も信じなかったそうだ。 あんな時に蝉が生きていたわけがないと。 だが、その話を聞いた中にいた一人の青年はその話に深い感銘を受けたのだろう。 後年、青年はそのエピソードを織り込んだ曲を作り、 毎年8月6日、広島に原爆が落ちた日に、 同じ被爆地である長崎でこの曲を歌っている。 蝉は鳴き続けていたと彼は言った あんな日に蝉はまだ鳴き続けていたと 短い命惜しむように 惜しむように鳴き続けていたと (さだまさし「広島の空」から) 今年もまた夏がやってきた。 テレビでは広島と長崎の様子が流れ、 敬虔な鎮魂と未来への希求の儀式が伝えられる。 世界へ向かって放たれたメッセージを伝えるマイクは、蝉の声も拾っていた。 あれから60回目の夏も、蝉は鳴き続けている。 澄み切った夏空に、己の命を刻み込むように。 *毎年さだまさしさんが8月6日に長崎で行っている野外コンサート、 「夏・長崎から」の模様が今年もNHK-BSで放送されます。 「平和の祈り 2005夏・長崎から」 8月13日(土) 13:00~16:30 NHK-BS2 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.08.10 00:19:33
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