『28 入笠山逍遙』1泊2日・28時間のたび <06・完>
(これは、9月25日12時から16時におきたできごとである)韮崎までの区間は、耕作に向かない細くて急勾配な谷筋は、樹林のままに残され、岡の上の平坦地や、幅のある谷底は、むだなく田や畑に使われている。この2つの風景が、1~3分間隔で交替する。それにあわせて、カメラを構え、シャッターを押す。車窓からの風景をオートフォーカスでとると、4回に1度くらいはガラス面でピントをとってしまい失敗する。ふと気がつくと、マニュアルでもピント設定ができる。ピントを風景に設定し、シャッターを押すと、瞬時に「カシャ!」あ、マニュアルだとタイムラグがなくなるんだ。この携帯とお付合いして約2年、今頃気づいてる。帰りの車窓写真には期待が持てそう。小淵沢へ到着。本来は、ここから小海線へ乗り換え、遠回りして帰る予定でした。今回はお通夜の予定がはいってしまったため、省略。これも次回の課題とする。 甲府で乗り換え。2分ほどしか時間がなく、トイレも駅弁もあきらめる。甲府を過ぎると、平坦地であっても田んぼはなくなり、果樹園が多くなる。中央本線の上り線と下り線の間は離れているところがある。上下独立の鉄橋が、ほんの数十メートルはなれて、あり、その間で鮎釣りの姿を見るが、さすがにシャッターは間に合わなかった。甲府駅あたりから、高校生が多くなる。男子と女子が別々のグループにわかれるのは、昨日の小淵沢の学生たちとかわらないが、冗談混じりに肩をたたいたり、強気な子と、弱気な子の個性が簡単に見てとれたり、自分の見慣れた都会の学生と変わるところがない。女子学生は「こっち、こっち」などと騒ぎながら、三々五々、席に着く。座席にゆとりはあるものの、はなればなれになるのがイヤなのか、男子のグループはドアの近くで立ち話をはじめる。沿線の地形が平地から丘陵地にかわり、勝沼ぶどう郷駅周辺の果樹園の広がる景色は、旅行者にとっては興味を惹くものなのだが、高校生らには単なる日常でしかないらしく、相変わらずのようすで話続けている。甲府から乗った電車の窓は、土埃に覆われて、くもりガラスのようになっていた。昨日、行きの列車では、先頭と最後尾の車両だけは窓が綺麗だった。もしや今回も、と、他の車両もまわってみるが、どうも無理なよう。このため、高尾までの窓際写真はすべて、ソフトフォーカス風になってしまった。 大月駅では乗客の多くが降り、それを上回る客が乗る。いままでとは違った制服の学生が乗りこみ、また、背広姿の男性や、リクルートスーツ風の若い女性、ベビーカーを提げた母親など、町場の日常を思い出させる人々が流れ込む。座席はほぼ満席、ドアまわりだけでなく、通路にもかなりの人が立つ。自由にウロウロできる状況ではない。 途中、上野原駅で特急の通過まちをする。トイレを探すがホームにはない様子。待ち時間がわからないし、乗り遅れると1時間待ち、ガマンすることに。ホームへ出ると、以前にテレビでみた風景がある。駅から丘の上の町まで登るエスカレーター。思っていたより、かなり大きい。 高尾でも乗り換えの時間は短く、とりあえず八王子までトイレをガマンすることに。八王子でトイレへ入る。ほっとする。長くてL字型にまがった跨線橋で、横浜線100周年のポスターを見つける。車内補充券がなつかしい。 「各停・東神奈川ゆき」は、すでに座席が埋まっており、座れない様子。次の「快速・桜木町ゆき」はまだホームについたばかりらしく、空席が目立つ。10分ほどまって発車。会社員、専業主婦、配送員、女子大生、営業員、老婦人、建設会社社員、などなど。だいたいのお客さんの属性がはっきりする。日常からかけはなれた異質な客は、法事帰りらしい老夫婦と、自分くらいのもの。うつらつらとするものの、駅の間隔がみじかく、そのたびに目を開ける。この駅はもっと畑が多かったはず、八王子みなみ野駅? 新設駅かな。そんなことを何度かくりかえすうち、ある駅でも目をひらく。ここは、ずーっと片思いをしていたようこさんの家のある駅。30歳くらいまでは実家に住んでいた。今もいるかもしれない。<フラッシュバック>・・・・・学校の近くの弁当屋。図書館。スーパーマーケット。東京駅の地下のうなぎ屋。ディズニーランド。三浦海岸。等々力の公園。高田馬場の喫茶店。新宿の紀伊国屋書店。・・・・・・。<フラッシュバック>ようこさんのいる場面がつぎつぎと、目前に、よみがえる。寝ぼけた脳が暴走している。ほんの数分のことだったようだけれど、不思議なものである。死ぬかと、思った。この電車は「桜木町ゆき」か。きっと、そのせい。島崎ひとみさんの「one more time, one more time」を思い出す。♪いつでも捜しているよ どっかに君の姿を 明け方の街 桜木町で こんなところに来るはずもないのに♪15時30分、無事に帰宅。このあと、通夜に出席のために、東海道本線に乗る。1日に2つの「本線」に乗るなんて、なんとめずらし経験。まぁ、それくらいでは「本線」で通学する学生さんには勝てない。とりあえず、にわか鉄ちゃんの旅は、いろんなものを引きずりながらも、終わったのであった。(これは、9月25日12時から16時におきたできごとである)