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2017年06月25日
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先月の末に、朝日新聞(火曜・夕刊)でみた版画「剱山の朝」を今日は見ゆく。サントミューゼ美術館が目的地。電車のルートをさがさねば。 

ネットで30分かけて、在来線優先でさがすが、見つからない。一部に新幹線をはさむコースになってしまったが、妥協する。(※1)

武蔵小杉から湘南ラインに乗り、まず「大宮」を目指す。

あれ、ドアの横に開閉ボタン。この路線は、どんなローカルな地までつづいているんだろうか。

 

大崎、渋谷、新宿、池袋、赤羽、・・・・・。降りたことのある駅も、ない駅も。開発の勢いの見える駅、とりのこされた印象の駅。車窓の景色に、いろんなことを、考える。  楽しい。

 

そして「大宮」。この駅は、15年ぶりくらい。この先、軽井沢でローカル線に乗り換えるか、そのまま新幹線で上田まで進むか。決心がつかあないので、軽井沢までの切符を買う。新幹線が楽しければ、乗り越しでいこう。

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大宮、熊谷、前橋。切れない家並み。北関東は奥まで町が広がっている。

高崎を過ぎて、やっと畑が混じる。穀倉地帯は、いつごろに消えたのだろうか。と、思う間もなくトンネルと山林が交互に入れ替わるだけの、スライド映写機みたいな車窓。やっぱり、新幹線はつまらない。新幹線はもぐら電車だ。

軽井沢からは、ローカル線で上田へ向かう。
ローカル線は、展望列車だ。

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車窓から見えるゴルフ場もレストランも、強い陽射しにさらされている。あ、帽子を忘れて来たな。携帯の電池も少ない。それに、デジカメも忘れている。路線さがしに苦戦して、我を忘れていたようだ。
窓の開く電車のなかでは、気持ちが落ち着いて、自分のアラが見えてくる。

 

鉄路は、左手の深い谷筋に沿って延びてゆく。川面ははるか下で見えないが、千曲川がながれているはず。右手の車窓から見える浅間山、左手の遠くには、まれに雲が切れたところだけ、北アルプスのどこかが見える。

 

信州の山並みをみるのは1年ぶり(※2)。
ローカル線を選んだのは、ささやかな布石。この1年で、かすんでしまった記憶の中の山々の姿に、ピントを合わせ直してから、あの版画に臨むための。

ときどき混じるソーラー発電のパネルが無粋に思える。身勝手な感想だが。

線路の左手の木は大きく育っていて、鉄路の年齢を感じる。
ホームを歩くセキレイのつがい。待合室がわりの古い客車。まっかなつば広帽子で列車をまつ女性。東南アジアからの新婚旅行客。自分の「日常」には、ないものばかり。

 

小諸駅で、乗り継ぎ。ホームで10分余。Yの字がたに矯められたホームの鉄柱に、頑丈なツバメの巣。登山靴とリュックサックの中年男性。
 見える風景のなかから、家々を間引いた姿を想像する。昨年10月に読んだ『千曲川のスケッチ』の時代には、どれほどだっただろう。(※3)

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手前には、のたうつ棚田。対岸には、水墨画のように切り立った大きな崖。猛禽類が飛ぶ。車もコンクリートも金属も、見られない。橋も、駅近くにだけ架かっているようだ。

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徐々に、建物と人影がふえてくる。国分寺跡で、草刈をするおじさん。たまねぎの収穫をする人びと。 屋根のてっぺんの棟の部分だけが、ぐっと背伸びをしている民家。跨線橋脇のラーメン店の駐車場に三脚を立てている鉄ちゃん。コンクリートの曲面をもつ小学校。次の町、「上田」に入っていく。

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上田駅の改札で美術館まで道順を尋ねると、地図をコピーしてくれた。 涼しい風が吹く中、駅前の木陰のベンチが気持ちよさそう。

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 人影の少ない路は、対面2車線で両側にしっかりと歩道もある。 警察署の横では、ツバメが元気よく飛び交っている。

裏手の駐車場に当ってしまい、美術館の入口へ迂回する。

((( 美術館の中でのトンチンカンについては、今日は省略します。))

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美術館の展示室を出たところで、携帯の電源入れようとするが反応なし。

もともと、レッドゾーンだったので、あきらめるしかない。 

硝子貼りの階段から、上田城が見える。背景にある山も高いが、その上にさらに、雲がそびえている。その雲の脇腹に、黄色く、白く、また灰色に、複雑に光が当たる。さっきまで見てきた絵の中の雲に似ているが、やぱり現物が、きれいだなぁ。

駐車場を縦断して、芝生斜面を直登して、堤防の上に出る。目のまえの河川敷の風景とは不似合な、あたたかめの風が、ポロシャツの襟を揺らす勢いで吹き継いでいる。

ここの車道は対面2車線だが、なかなかの交通量。横断できるかどうかで迷う。 30メートルほどの向うに見える信号が、赤くなるのをまってから渡る。

河にかかった赤く長い橋。 対岸の家並みは、近くにみえる丘陵と河のあいだに、平たく広がっている。 背景の丘陵は、翳ってビリジアンに染まっているのに、橋と家並みだけが照らされている。    ここ

雲の仕業をたしかめようと見上げると、たしかに、ふくざつなカサブタのような雲が、太陽の前にかかっていて、幾筋もの「天使の梯」が見えた。

カメラがないので、少しでも細かく記憶にとどめたいのだが、自分には画像的記憶の能力を持ち合わせていない。
河川好きの自分は、橋のうえに立ちたがる。いつもなら、あの赤い橋の真ん中を目指すところだが、この次に来たときにしようか。 さきほどの階段でみた上田城が気になっている。 堤防上からの景色を眺め尽くして、15分ほどののち、城へ向かう。
美術館も、浅い角度であたる西日に、印影が強調されていて、あたたかく親しげに見える。

上田城へ向かう途中、ショッピングモールで電源を借りて、10分ほど、携帯を充電。スツールに座ると、この2時間ほどを歩きづめだったので、左の足首に軽い違和感がある。

上田城は、思ったよりも、遠かった。鉄道の高架下を抜けられるように見えたのだが、地上にも線路があり、駅の近くまで迂回させられる。その後、単調な登り坂を10分余、城の入り口でも、スクランブル信号で足止めをいただく。

南側の堀の底が遊歩道になっていた。もとから空堀だったのか、両側にある木が大きい。

体操着の中学生が20名ほど、走ったり休んだり、のんびりとしている。

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神社のほうから、スーツ姿のきれいな女性が歩いて来るが、時代劇がかった背景に、どうにも不釣合い。その数分後に、刈上げの髪をていねいにセットした丸メガネの男性が皮のカバンをもって通り過ぎた。巫女さんと神職の通勤に当ったのかもしれない。

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懸崖の櫓の展望台も、すでに閉まっている。
ここでも、ツバメが無謀に思える速さで、飛び回っている。
「櫓の少し奥へ進めば、石垣のうえからでも盆地を一望できるか」と、おもったのだが、樹がおおくて切れ切れにしか見られなかった。 

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堀の底が遊歩道になっていたのは、橋の南側。 北側は、堀にも水があり両岸の上のほうに集まる草木にも、野生を感じる。 美術館の踊り場からみえた高い山とそびえる雲は、樹々にかくされてここからは、見えなかった。

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城を出る。右手の坂をくだれば、駅に出られるのはわかっているけど、登ってきたのと同じ道ではつまらない。このまま直進しても、どこかで右に曲がれば、駅にあたるはず。

大きな土産物店と、和風を擬した中学校の間を、進む。 中学校の部活の声々に、現代にひき戻される。

城に向かう道は、ただの道ではなかった。明治ころの雰囲気の木造の建物や教会、いくつもある市役所の分館、郵便局などがならぶ。城も残っているのだから、空襲にあわなかったまちなのかもしれない。

商店街にあたる。ここを右に折れれば、おそらく駅だろう。

古めかしい喫茶店がある。コーヒーもいいなぁ、足も痛むし。
が、ちょっと危険な気配。シャッターが閉まっている店が何件かある。こぎれいで、廃業している気配ではない。ひょっとして、夜8時にはほとんどの店が閉まるという、昔ながらの商店街かもしれない。

まだ1個所、寄りたいところが残っている。街角で立ち話をしていた人に、「みすず飴屋さんは、この道でいいですか。」と、確認させてもらって、また先をいそぐ。

商店街沿いのお店のテントには、5~6割の密度でツバメの巣があり、車道上空には鳥影が濃い。

みすゞ飴のお店にたどり着く。入口の小父さんの手には、ロープが。 「あ、」。 立ち止まったこちらの様子をみてとって、「まだ、だいじょうぶですよ。」と、ドアを開けてくれる。

お店のひとは、やさしく対応してくれる。何種類もあるジャム。おすすめをたずねると、「柑橘」と「苺」と答えてくれたのだが、どちらも他県産の原料。 地場のものにこだわった自分は、「りんご」と「ぶどう」を2つずつ。あわせて、大きなびんを4つ。 

本来は、自宅と知人宅に送ってもらうつもりだったのだが、おそらく閉店時間をすぎている。これ以上は気が退ける。 紙袋にいれてもらって持ち帰ることに。精算の途中で仕事の電話がはいり、荷まとめもしないまま、外へ出た。入口の小父さんは「気にしないで、店内で電話してください。」と、最後までやさしかった。

で、この電話の途中で、また電池が切れる。飯島商店さんの外観も、画像を残せなかった。 重厚な外観は、ストリートヴューで、ご覧下さい。
      ここ ここ

*******************


新幹線のホームへの入場をあわててしまい、45分をホームで過ごす。あ、入場前なら、ローカル線に替えられたかもしれないのに。

でも、ここで、落ち着いていたら、2つのよいことがあった。

1)新幹線のホームからみた西の空が、だんだんに暮れていく色の移ろいがきれいだった。ホームからの景観は、上部は架線にきざまれ、横は遮音壁に囲われて、ぜんぜん開けてはいない。

東の空へ向けて黒い雲が流れていき、折り重なったのか、真っ暗。これから乗る新幹線は、あの下へむけて走る。

反対側のホームの窓には、重なる山並みの、上の方だけが見える。だんだんに、ゆっくりと、山の緑が暗くなってゆく。稜線の茜色も、薄まっていく。このまま、真っ黒になるのかと思っていたら、谷の奥が明るく見える。谷筋をたどって、山の上の方から、霧が下りてきているみたいだが、霞んでいいて、確認はできない。

今日見た版画を思い出す。重ねられた絵の具で、微妙なグラデーションを表現していた。油絵よりもはるかに滑らかに、水彩がよりも抑制を訊かせて。 版画でよかった。


 吉田博全木版画集/吉田博

 

2)通勤風のお客さんがホームに並ぶ。出張風のひととは、あきらかに雰囲気が違う。 みすゞ飴の飯島商店さんで、他県の果実を使ったジャムを勧められたことの疑問が解けた。観光の自分には、「せっかくだから地場のものを」という気持ちが働いた。が、地元のひとには、わざわざ遠方から取り寄せてもらった果実に、興味がわくのだろう。 土産物に傾いているわけではなく、地元に根差したお店なのだなぁ。


飯島商店・みすゞだより

 

 

※1 新幹線

 https://plaza.rakuten.co.jp/asa100/diary/201706170000/

 

※2 安曇野
 https://plaza.rakuten.co.jp/asa100/diary/201604140002/

※3『千曲川のスケッチ』
 https://plaza.rakuten.co.jp/asa100/diary/201610270000/






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最終更新日  2017年07月01日 21時43分46秒
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