テーマ:新撰組!(305)
カテゴリ:カテゴリ未分類
今回新選組が「対決」する相手は見廻組。京の治安維持という同じ目的をもつ幕府の機関どうしの主導権争いである。だが、そんなことで争っている場合ではないのである。長州も薩摩も藩論をひそかに攘夷から開国に転換し、幕府に対抗する新たな手立てを探り始めている。そして坂本竜馬は、双方が実利を享受できる「ビジネス」という大着想をもって、両者を同盟させるべく画策を開始したのである。
そんな動きがあるとも知らず、新選組は火事の始末を巡って見廻組と対立している。そしてその内部では、相変わらず内向きの火種がくすぶり続けていた。近藤周平は彼に対する男の嫉妬と戦っている。谷三十郎は自身の処遇に不満を募らせている。伊東甲子太郎の最新兵学講義は大盛況で、甲州流軍学はすっかり時代遅れとなった。武田観柳斎の存在感が次第に薄らいでいく。 松原忠司は、自分が手をかけた長州藩士の妻のことが今でも気にかかっている。親しみを込めて「まっちゃん」と呼ばれる心優しい男は、斎藤の忠告も無視して、その女がいるであろう火の中へ身を投じていった。 古株の幹部隊士も膨張する組織を持て余し始めている。自らの考えが及ぶ範囲での課題消化に汲々としている。 源さんは、大所帯になった新選組に感慨も深い。だがその一方で、自分の立場のありように戸惑っている。勇にお茶を汲み、勇の身の回りの世話をし、常に勇の傍で勇のためだけに奉仕していた頃が懐かしい。それが叶わぬ今、せめて勇の跡取りとなる周平の力になってやりたいと願う。 総司は寺の宝探しに興味をそそられる。でも誰も相手にしてくれない。変わりゆく新選組に一抹の寂しさを感じるが、源さんのように別の使命を見出せるほど大人ではない。左之助と平助が加わってくれてホッとする。江戸を発つ前、この三人で居酒屋で酒を飲み、粕屋新五郎の剣技に無邪気に感嘆した日のことが懐かしい。 「ヤンチャ三人衆」に名を連ねた平助だったが、彼は彼で苦悩の中にいた。伊東は隊内での勢力拡大に余念がなく、かつて門下生だった平助も当然自分の勢力下にあると信じて疑っていない。平助自身、伊東のことは確かに尊敬しており、伊東と行動を共にできることを嬉しく思う。勇と伊東、敬愛する二人の師の下で働けると思えばこそ、伊東を勇に引き合わせたのだった。だが、伊東の秘められた野心にも薄々は気づいており、その漠とした不安が最近ますます現実味を帯びていくように感じる。勇に対する伊東の評価。伊東が勇と距離を置いていることを実感し、心が痛んだ。伊東は勇に心酔している平助に充分配慮したつもりだったが、その想いの深さをまったく測り違えていた。講義に遅刻した平助を叱責する伊東。彼にとっては門人に対するいつも通りの対応であって、特にさしたる他意はない。だが平助は、その態度に居心地の悪さを覚えざるをえなかった。自分が伊東を引き入れたのは間違いだったのではないか――平助は自責の念に苛まれ、たまらず総司の誘いに救いを求めた。とはいえ律義な平助は、師と仰いだ伊東のことを見限ることはできない性分だった。かくして平助は、板ばさみの苦しみを誰にも言えずにひとりで抱え込む。 長州の裏で暗躍する「天狗」は捨助だった。「あいつは尊皇でも攘夷でもないはず」と歳三は訝るが、実は長州自体がいまや「攘夷ではない」のである。「捨助も不思議な人生を歩んでいるのだなあ」と勇は言う。確かに勇は見事な采配で火災の混乱を収めた。勇の威厳あふれる姿は佐々木只三郎を感嘆せしめた。だが、警察・消防レベルを超えた勇らの想像の及ばない「不思議」な事態が、現実に進行しているのである。 おそらくは三谷氏が皮肉を込めてつけたこの「対決見廻組!」というタイトル。身内の闘争に終始するうちに、大きく動いていく時代から取り残されていく。これが新選組の限界であった。もっとも、これを愚かだと揶揄することはできない。動乱の世にあって、警察・消防の役割を立派に果たしているのである。ただ不運だったのは、内向きの火種の向こう岸で、ひとりの天才がその瞳を激しく燃やし始めたことだった。 #捨助が火事を起こした「萬屋」って中村獅童さんの屋号だね。偶然? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|