カテゴリ:古典芸能
10ヶ月ぶりの歌舞伎ナマ観賞。しかし、この地方巡業直前に團十郎さんが再び体調を崩され休演。残念。
●源平布引滝「実盛物語」 斎藤別当実盛:市川海老蔵 葵御前:市川右之助 瀬尾十郎:片岡市蔵 小万:市村家橘 「実盛は今は平家方だが、秘かに源氏に心を寄せている」とか「女が握りしめていた源氏の白旗が平家方に渡らぬよう実盛がその腕を切り落としたが、その女は葵御前を匿っている九郎助の娘の小万だった」とか「実はその小万は平家ゆかりの捨て子だった」とか「瀬尾が小万の死骸を足蹴にしたため小万の子太郎吉に討たれるが、瀬尾こそが小万の実の父親であって、瀬尾は自分の孫である太郎吉に手柄を立てさせるためにわざと討たれた」とか「手柄を立てた太郎吉は葵御前が産んだ駒王丸(のちの木曽義仲)の家来になるが、その太郎吉こそ、のち実盛を討ちとる手塚太郎光盛である」・・・などなど、登場人物どうしの関係がかなり複雑。プログラムで筋書きをじっくり確認した上で観賞する。 何といってもお目当ては海老蔵さんであるが、期待に違わずカッコイイ! 今回はわりと席も前の方だったので、お顔がよく見えて大満足。声も伸びやかで実に気持ちよい。やはりスターだなあと感服。 なお、太郎吉が実は結構大事な役で、準主役といってもいいくらいだったが、演じる子役(ダブルキャストのどちらなのかは不明)が思いもよらず上手で感心した。出産を覗こうとして止められるところとか、ハナをたらして拭いてもらうところとか、実盛の真似をして馬のおもちゃに乗って得意になるところとか、実盛との絡みが実に微笑ましくてよい(子役に対しては得てしてそういう感情になってしまうが)。実盛の海老蔵さんもこれを余裕で懐深く受け止める。 印象深かったのは、最終盤での実盛の台詞。太郎吉は成人したら母の仇の実盛を討つと言うが、その頃には実盛は白髪で顔が変わっているかもしれないと九郎助に指摘されたのを受けて。 「その時は実盛が鬢髪を黒に染め、若やいで勝負をとげん。 坂東声の首とらば、池の溜まりで洗うて見よ。 いくさの場所は北国篠原、加賀の国にて見参~見参」 この台詞で客席に大拍手が巻き起こり、一段と盛り上がったのである。実盛が加賀の地で最期を迎えるというのは、実盛の首洗い池など実盛の最期の逸話に関する史跡が実在する当地では(しかもこういうお芝居を見に来る人にとっては)周知の話であるが、その逸話がずばりそのまま予告されるドラマチックな展開におおいに興奮した。と同時に、やはり地元民だけに、みんなこのお話に愛着があるのだなあと不思議な感動を覚えた。 #このあたり、当「実盛物語」で義太夫を勤められている竹本葵太夫さんもご自身のホームページで同じような感想を述べられている。やはり演者の方もそのように感じておられたことを知り、何となく嬉しい。 ●口上 團十郎さん不在のため、海老蔵さんがすべてを仕切ってご挨拶。期待していた「にらみ」がなく、わりとあっさり終了。残念。 ただ、「実盛物語」で瀬尾を演じた市蔵さんが、瀬尾は悪い奴と決まっているが「実盛物語」の瀬尾だけが唯一もどりでいい役になるので嬉しかったと述べられ笑いを誘う。そういえば「俊寛」に出ていた憎たらしい役人も瀬尾だったと思い出す。 ●お祭り 團十郎さんが演じられる予定だった演目。代役として海老蔵が鳶頭を勤め、また、右乃助さんと家橘さんが芸者、市蔵さんが若い鳶で加わる。鳶頭の團十郎さんがおひとりで踊るはずだったのだけれども、構成自体を変えたのだろう。何となく眺めているうちに幕。「実盛物語」がきわめて濃厚だっただけに、いささか物足りない気も。 まあ、舞踏というのはそういうふうに気を張らずにふわふわ眺めて楽しめばいいかと思うが、それでも正直なところ、團十郎さんの踊りを見たかったというのが本音。「待ってました!」の掛け声に「待っていたとはありがてえ」と答えるのは、やはり病気を克服した團十郎さんであってほしかった。今は、養生してまたいつか元気なお姿を見せてほしいと願うばかり。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
September 6, 2005 02:48:18 AM
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