「破軍の星」北方謙三
建武の新政で後醍醐天皇により十六歳の若さで陸奥守に任じられた北畠顕家は奥州に下向、政治機構を整え、住民を掌握し、見事な成果をあげた。また、足利尊氏の反逆に際し、東海道を進撃、尊氏を敗走させる。しかし、勢力を回復した足利方の豪族に叛かれ苦境に立ち、さらに吉野へ逃れた後醍醐帝の命で、尊氏追討の軍を再び起こすが…。一瞬の閃光のように輝いた若き貴公子の短い、力強い生涯。柴田錬三郎賞受賞作。 内容(「BOOK」データベースより)読了。まず初めに言っておく。わたしは北方小説が得意、ではない。あまりにあっけなく、男たちが夢や信念のために命を落としていくからだ。もう少し自分の命を大切にしようよと歯がゆく思う。そして、歴史小説も、そんなに得意ではない。ラストがわかっているからだ。彼らより未来を生きるわたしたちには、全ての出来事の終わりが見えている。それはたいてい、とっても哀しい終わりだ。北方×歴史小説。わたしにとって、どれだけ読むのに勇気がいったか!それでも気が付けば先へ先へと読まされていました。そして怒涛のラストはやはり涙、涙、涙・・・顕家ーーーーーー!!(号泣)でも、今、なんともいえない心の安らぎを得ています。この小説を読んでる間、わたしはとっても幸せでした。短い生涯を、まさに駆け抜けた主人公北畠顕家。陳腐な感想ですが、一生涯を生きる、というものを見せてもらった。顕家は、確かに英邁かつ賢い武人であります。でも決して豪傑とかそんなんじゃない。大義小義に迷いもすれば、女にときめき、息子という存在に揺れもする。とっても自然体なんです。驕りたかぶるでもなく卑屈になるでもなく時の運を嘆くでもなく・・・自分と、民と、国について真摯に思い巡らせている。その姿勢は常に実直で、立場を越えて人に「生かしたい」と思わせる。そうみんな顕家に生きて欲しいんだ。この人に賭けてみよう、賭けてみたい、と思わせるものをもっているのだ。わたしだって生きててほしかったさ。「もう5年あれば――」などという文章を見るたび胸が痛くて泣きそうだった。類稀なる才能をみせればみせるほど、切なくなる。傑出していることが仇になると、くっきり見えてくる。でも、なにが爽やかって、すべてひっくるめて、「悔いはない」と本人が思っていること。それならもう、それが大正解なんだと思います。みんながこの人に自分の人生賭けたいと思って、実際賭けて死んでいって、その人がここまで清々しかったら、もう言うことない。ずーっと仕事に忙殺されてて特に感じることもなく、そんな空っぽのところにこれを読んで、今わたしの中は南北朝、戦乱の世の中です(笑)もう頭も心も顕家くん(笑)時折見せる笑顔が歳相応に思えて大好きでした・・・自分の器を大きくも小さくも見せず、ただただ自分の心の赴く先に意識を集中し、できることをして生きていく・・・そんな風にわたしも生きたい。1本書けるまで出てこないー!つもりでしたが、これ読んだら感想書かずにいられませんでした。ものすごく救われた気がする。わたしは小説を読んで、人の想いにあれこれ思いをめぐらすことが好きなので、現実逃避させてもらっているというか、幸せにしてもらってます。ここのところ推理小説だったのが、はまり物が歴史小説にかわりそう(笑)