読レポ第1167号 カール・ロジャーズ ロジャーズの発見
読レポ第1167号カール・ロジャーズ~カウセリングの原点~著:諸富祥彦発行:㈱KADOKWA第2章 「カウンセリングにおける変化の過程」の発見 ロジャーズの発見 重要なのは、ロジャーズがこのような人生観を持つに至ったのには、彼のカウンセリングでの臨床体験がきわめて大きな影響を与えている、ということである。ロジャーズが経験したのは、平たく言えば、ロジャーズ自身は「こうしなさい」「こうするといいですよ」などと指示をすることはしていはいないのに、「クライアントは、おおむね、同じ方向に向かっていく」ということであった。 ロジャーズが、クライアントの言葉に、深く、深く、耳を傾けていく。すると、クライアントの多くは、自分の内側に深く、深く、耳を傾けてるようになる。自分を縛っていた考えの型(パターン)から離れ、内側の声に従って、より自由に、より柔軟に、より自分らしく、生きていくようになっていったのである。 どのクライアントも!悩みの内容はまったく異なるのに! これは、ロジャーズにとってたいへん大きな驚きであった。きわめて新鮮な驚きであった。ロジャーズの最大の発見と言っていいだろう。 しかもロジャーズの教え子たちのカウンセラーでも、ほぼ同じことが起きていたのだ。それからロジャーズは、その体験に意味を見出し、「心理療法の過程概念」と命名し、教え子たちと協同でリサーチをおこない、「過程尺度(プロセス・スケール)」を開発し、その尺度を使ってリサーチを積み重ね、「心理療法の過程変数」を発見し、カウンセラーの態度を「左辺」、クライアントの変化を「右辺」とする「心理療法の過程方程式」を見出していったのである。ロジャーズの研究者人生で最もエキサイティングな時期であったと言っていいだろう。 その成果をまとめ、一般の読者にも理解できるようにまとめたのが、ロジャーズの主著『オン・ピカミンング・ア・パーソン』(Rogers.1961a)である。その中心部分は、研究成果をもとに書かれた第5章から第9章である。タイトルだけ見ておこう。 第5章 心理療法におけるいくつかの確かな方向性 第6章 人が”ひと”になるとは、どういうことか 第7章 心理療法の過程概念 第8章 「自己が真に自己であるということ」―人間の目標に関するある心理療法家の考え 第9章 十分に機能する人間―よき生き方についての一心理療法家としての私見 第8書の論文で、ロジャーズは「クライアントと私の関係のなかで浮かび上がってきた、人生の目的を表現する最も適切な言葉」は、ゼーレン・キルケゴー(S.Kierkegaard,1813-1855)の言う「自己が真に自己であるということ」(to be that self which one truly is)という言葉であろう、とう。 クライアントの多くが同じ方向に向かって変化していく、という驚くべき事実を発見し、リサーチを積み重ねていったロジャーズは、その成果をまとめるにあたって、キルケゴールを手がかりにした。そして、次第に心酔していった。このことが、『オン・ビカミング・ア・パーソン』全体に影響を与えている。とりわけ、キルケゴール『死に至る病』の冒頭箇所における「自己生成論」に影響を受けていたことは明白である。 「人間は精神である。では精神とは何か。精神とは自己である。では自己とは何か。自己とは、それ自身に関係するということの一つの関係、言い換えると、その関係において、その関係がそれ自身に関係するということ、そのことである。自己とは単なる関係ではなくて、関係が自身に関係するということなのである」 ここでキルケゴールは、自己とは、「それ自身に関係するところの一つの関係」であって、「その関係において、その関係がそれ自身に関係するということ、そのことである」という。同語反復のようでありながら、そうではない。最初に「一つの関係」と言われたものは、「その関係において」と受けられて、「その関係がそれ自身に関係する」と自己生成が生起する「場所」となっている。そしてこの自己の定義の重点はもはやこの自己生成の場所である「関係」の方にではなく、「関係がそれ自身に関係する」という自己生成の出来事そのものの方に移っている。つまり、自己は、心と肉体等の直接的な二者関係を場所として、みずからにかかわっていくことによって真の自己となっていく、という「自己生成の出来事そのもの」をしめしているのである。自己とは、関係がそれ自身に関係するという自己生成の出来事が生起していく、そのプロセスのことであるキルケゴールは言うのである。 ロジャーズがカウンセリングにおけるクライアントの変化を、「生成(becominng)」という概念でとらえること、著者のタイトルを『オン・ピカミンング・ア・パーソン』にしたこと、こういったことのすべてにキルケゴール『死に至る病』冒頭のこの箇所から受けた影響を見てとることができる。 「真の自己」「ほんとの自分」というものは、心のどこかに隠されて、まだ発見されていない輝ける原石のようなものとして存在しているわけではない。自分自身に対峙し、自分自身を見つめ、時に自分自身の声に従い、時にそれに逆らい、そうしたことの積み重ねによってみずからにかかわっていくプロセスにおいて生成されていく動的なものである、という認識を表明したものであろう。だからこそロジャーズもあえて「ビカミング・ア・パーソン」という表現を使ったのであろう。と著者は述べています。 ロジャーズは、「クライアントの言葉に、深く、深く、耳を傾けていくと、クライアントの多くは、自分の内側に深く、深く、耳を傾けてるようになる。自分を縛っていた考えの型(パターン)から離れ、内側の声に従って、より自由に、より柔軟に、より自分らしく、生きていくようになっていった」のを発見したようです。 この発見がロジャーズが「カウンセリングの父」 と言われるようになったのでしょう。 カウンセリングの基本は、「こうしなさい」「こうするといいですよ」などと指示をすることではなく、、クライアントの言葉に、深く、深く、耳を傾けて、クライアントが自分自身の内側の声と対話することができるよに援助する環境をつくることだと思います。 以前も言ったと思うが、「主体的」になる援助をすることです。主体的になるには、上記のように自分自身の内側と対話して、自分で自己決定することです。 他者のあれこれの右往左往した指示に、振り回されないで自己決定することです。もちろん、他者の指示を自分で決めるのも自己決定です。他者のせいにしないことです。 カウンセリングは、カウンセラーがクライアントに深く、深く、耳を傾けて、クライアントが自分自身の内側の声と対話することができるように援助することだと思います。