観照 & 探訪 [再録] 奈良 雲井坂・轟橋碑・猿沢池・采女神社ほかと奈良県立美術館
2013年の興福寺国宝特別公開の続きに訪れた部分のまとめの再録です。奈良県立美術館の展覧会の印象記は覚書として最後に回し、奈良市内のスポット探訪の方をメインに加筆、再編集してご紹介します。 (再録理由は付記にて)興福寺北参道のところから東西の登大路を横断し、奈良県庁の西側から一筋北の通りを右折します。東に向かう突き当たりが、南北の幹線169号道路です。この突き当たりに見えるところが冒頭の景色のところ「雲井坂」です。以前にもこの道路を往復していましたが、この時までこの石碑を意識しませんでした。石には「雲井阪」と刻されています。このあたりの地図(Mapion)はこちらからご覧ください。雲井坂は、「雲居坂雨」として「南都八景」に数えられていた「雲居坂」だそうです。「雲井坂雨」と表記されてもいます。南都八景は東大寺・興福寺の周辺で見られる景勝地を選んだものだとか。(資料1,2,3) 東大寺鐘、春日野鹿、南円堂藤、猿沢池月 佐保川蛍、雲居坂雨、轟橋行人、三笠山雪が選ばれています。 むら雨のはれ間に越えよ雲井さか みかさの山は程ちかくとも 藤原為重近江八景、金沢八景など、「八景」を選ぶというのは中国の北宋で選ばれた「瀟湘八景」をモデルにして景勝地を選定したのが由来のようです。石山寺や瀬田川流域を探訪したおり、「近江八景」を調べていて知りました。道沿いに更に少し北に行きます。緑地が続きます。 この緑の空間は、東大寺旧境内だったところです。この景色にみえる芝生の北隣、黒い壁面の建物が「吉野本葛天極堂」さんです。吉野葛を使った様々な葛料理で評判のお店です。この時はここで軽く遅めの昼食を食べ、しばし休憩しました。お店はこちらからご覧ください。店の大きなガラス越しに東大寺西大門址のこの一角を眺めることができます。この画像はお店を出てから撮ったものです。奈良県立美術館に行く折りには、歩道歩きをやめて、この緑地を歩きました。 上掲の「雲井阪」碑のあたりに、このゆったりとした池があります。木の傍に池の名称碑が建てられています。その北側には「轟橋」の碑があります。「轟橋行人」に関係する「轟橋」です。 うち渡る人めも絶えず行く駒の 踏みこそならせとどろきのはし 藤原冬宗この坂道の途中に元は川が流れていて、轟橋が架けられていたそうです。インターネット検索で調べていて入手した資料では、この石碑のある付近の道路歩道部分で違う色・材質の石が使われて意識的に区別されていることからそのように推測します。(資料1)もとは吉城川が流れていたようです。歩道を歩いているときはこのことを意識すらしていませんでした。嗚呼!奈良県庁の北側の東西の通りには、通りの北側に奈良県警察本部の建物があり、その西隣が午後からの目的地となる「奈良県立美術館」です。県警本部の前では、小学生の一団が白バイについて、警察官から何やら説明を受けていました。社会科学習の一環でしょうか。熱心に聴いています。 通りに沿って、この時の特別展の幡が街灯に取り付けられた金属棒に吊されています。 特別展 Kimono Beauty -シックでモダンな装いの美 江戸から昭和-この「奈良県立美術館」で開催されていました。ここを訪れるのは久振りでした。この特別展のことは、最後に覚書として残しておきたいと思います。美術館を出た後再び興福寺の北参道を南に向かい、境内を横切ってJR奈良駅に戻ります。鹿がゆったりと思い思いに・・・・ 鹿せんべいを売るおばちゃんが境内の一隅で談笑していました。猿沢池はこの坂道よりもどんと一段下になります。坂道の脇には、「植桜楓之碑」が建ち、傍には新たに碑についての説明板が建てられています。幕末(1846~1851)に奈良奉行を勤めた川路聖謨の呼びかけで「桜と楓の苗木を東大寺・興福寺両寺を中心に南は白毫寺西は佐保川堤まで植樹した」ということの記念碑なのです(説明板より)。夕方に向かう猿沢池も人が少なくなり始めています。亀や鳩がのんびりと・・・ 猿沢池の西北隅に位置する小さな朱色の社があります。春日大社の末社「采女神社」ですこの神社、不思議なことに鳥居を背にして後ろ向きに建てられているのです。『大和物語』にその伝承が記されているそうです。帝の寵愛が衰えたことを歎き、采女がこの猿沢池で入水し亡くなります。その霊を慰めるために社が建てられたのですが、池を見るにしのびないと神社を一夜にして後ろ向きにしたので、こうなっているというもの。その伝承が能に取り入れられて、謡曲「采女」が創作されたそうです。 奈良駅もすっかり様変わりしました。***** 特別展の覚書 ***** この特別展のチケット 購入した図録図録表紙にはチケットのきものの図柄の一部が使われています。特別展会場は勿論撮影禁止。この特別展のハイライトの一つは、ボストン美術館から里帰りしてきたビゲロー・コレクションのきものです。アメリカ人、ウィリアム・スタージス・ビゲローが収集したきもので、江戸時代中期から明治時代初期のきもの17領が特別出品されています。図録を参照して、鑑賞の印象を少し述べてみたいと思います。ビゲローは、133領のきものをボストン美術館に寄贈しているそうです。その中から17領が選ばれたことになります。ビゲローは日本で暮らした8年間の間に多岐にわたる日本の作品を収集しました。それを数回にわたり、ボストン美術館に寄贈したそうで、染織作品の寄贈は約1,000点に及ぶようです。チケットと図録表紙に掲載のきものは、勿論ビゲロー・コレクションの1点です。「白綸子地竹垣牡丹模様小袖」染に刺繍がほどこされた江戸時代の作品です。18世紀初頭、宝永・正徳頃の作と推定できるものだとか。ビゲロー・コレクションの中では最も古い時期の作品のようです。右袖の花籠のわずか一部がチケットには載っているだけですが、きものの図案としては、花籠からあふれ出た牡丹の茎と花がダイナミックに垂れさがる意匠です。「寛文小袖」の典型的意匠を取り入れ、そこに竹垣を配し、空白を小さくして大胆な構図を生み出しています。以前から、京博の常設展で結構きものの展示を見ていますが、いつも思うのは江戸期のきものの意匠のモダンさです。大胆で華やかな図案、意匠のおもしろさに惹きつけられます。きものの素材やきものの様式などについては、無知のままなのですが、きものに描かれたり、刺繍されたりしたその図案、意匠を見るのは大好きです。絵画鑑賞の感覚できものの作品を眺めています。大胆な意匠の作品がある一方で、非常に細やかで繊細な感覚の図案の作品もあり、目を楽しませてくれます。ビゲロー・コレクションと併せて、国内各地で所蔵されている各時代のきものを数多く拝見することができました。この展示でおもしろいと思った点がいくつかあります。1つは、寛文6年版「御ひいなかた」と称される江戸時代の小袖雛形本が出品されていることです。同種のものが何点か展示されています。つまり、きもの図案のカタログ集、スタイルブックなのです。精緻に縮小して描かれたきものの図案を見て、当時の人々も、これがいいねと発注していたのでしょうか。図録によれば、ボストン美術館には43種の小形雛形本が所蔵されているそうです。日本にはどれくらい当時の物が残っているのでしょうか。私は今回初めてこの種の雛形本を目にしました。2つめは、江戸時代の絵本の展示です。きもの姿の風俗が精緻に描かれています。勿論版木を起こして摺りあげた和綴じの絵本です。絵本の絵はなんと錚錚たる浮世絵師が名をつらねています。まさにオンパレードです。菱川師宣、西川祐信、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎・・・・などなど。3つめは、江戸時代の髪飾りの優品が併せて展示されています。様々な材質と意匠の小道具です。櫛、笄(こうがい)、簪(かんざし)、それに紅板(携帯用の紅入れ)もあります。一点一点が結構凝った作品です。こういうところで、さりげなく贅と美を競った人々が存在したのですね。4つめは、明治・大正期のきものに関連した浮世絵、挿絵、絵画、ポスターが出展されていることです。竹下夢二を除いては、初めて名前を知った何人かの画家の作品がありました。知る人ぞ知る・・・なのでしょう。大正ロマンを彷彿とさせるきもの姿の絵を味わえました。最後に、きものに不可欠な帯の秀逸な作品群を楽しめたことです。ここにも様々な意匠・図案があって、興味深いものでした。**********ご一読ありがとうございます。参照資料1) 名勝奈良公園としての本質的価値 pdfファイル 奈良県2) 南都八景 :ウィキペディア3) 「南都八景」をご存知ですか? :「奈良公園」【 付記 】 「遊心六中記」と題しブログを開設していた「eo blog」が2017.3.31で終了しました。ある日、ある場所を探訪したときの記録です。私の記憶の引き出しを維持したいという目的でこちらに適宜再録を続けています。再録を兼ねた探訪記等のご紹介です。再読して適宜修正加筆、再編集も加えています。少しはお役に立つかも・・・・・。他の記録もご一読いただけるとうれしいです。補遺こんな講座ありました(奈良今昔~南都八景を巡る~) :「奈良市生涯学習財団」ウィリアム・スタージス・ビゲロー :ウィキペディアWilliam Sturgis Bigelow :From Wikipedia, the free encyclopediaVita William Sturgis Bigelow by CURTIS PROUT :Harvard Magazine日本美術に魅了されたボストニアンと日本人 :「ボストンという町」(神戸大学)和服 :ウィキペディア江戸時代のきものデザイナー 染織のはなし :「京都国立博物館」江戸時代の女性衣裳 :「日本の服の歴史 Maccafushigi」 続江戸時代の女性衣裳 続々江戸時代の女性衣裳(葛飾北斎編) このサイト、奈良時代から明治時代まで通覧できる秀逸な内容です。きもので知る江戸時代 :「文化デジタルライブラリー」ボストン美術館のコレクション kimonoで検索すると547件(2013.5.21) Museum of Fine Arts Boston Collection Search ネットに情報を掲載された皆様に感謝!(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれませんその節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。その点、ご寛恕ください。)