バンクーバー五輪にプルシェンコ選手が出場すると聞いて、とても楽しみにしていました。
4年前のトリノ五輪の金メダリスト、ロシアの天才男子フィギュアスケーター エフゲニー・プルシェンコ選手です。
4歳から病弱な身体を克服するために、スケートを初め、11歳にして、スケートを本格的に学ぶため、家族と別れ一人でサンクトペテルブルクへ移住。
両親は、プルシェンコ選手にスケートをさせるためだけに必死で働いていたようです。一方、幼いプルシェンコ選手は、劣悪な環境の共同安アパートに、ダンボール箱で壁の仕切りを作ったり、空き瓶を拾って小銭を稼いだり、と相当苦しい経済状況でした。また、スケート強化チーム内では、田舎から出てきた才能ある小さなプルシェンコ選手に嫉妬して、根性焼きもどきの手荒なリンチまで行われていたそうです。
逆境に耐えながら、旧ソ連システムの徹底した英才教育のもとで、彼の才能はみるみる開花し、1998年世界選手権では、弱冠15歳にして史上最年少銅メダリスト。
2002年ソルトレイクシティ五輪で銀、2006年のトリノ五輪で金を獲得しました。
他の追随を許さない圧倒的な高い技術と芸術性。その強さは、彼のこのようなことばに裏づけされるのかもしれません。
「両親がいつも見ていたひとつのこと。それを達成するためにすべてを諦めた両親。みんなが僕に金メダルを与えてくれました。だから、彼らがいなければ僕は取るに足らない人間でした。これは彼らのためです。彼らにはその価値があります。」
180センチの長身にもかからず、高く華麗な4回転ジャンプを舞い降りる。リンクが小さくみえるほど滑らかで速いスケーティング。キレのある迫力満点の超絶ステップ。中心のブレのない高速スピン。
幼少からバレエで鍛えた身体は足先、指先までのびやかで繊細な表情を見せてくれます。その上、ファンサービスは最高で、試合で貴公子然の演技をするかと思えば、エキシビションでは、筋肉スーツや女装、着ぐるみ、赤ちゃんなど、際限なく面白いパフォーマンスを披露し、会場は爆笑の渦になります。とにかく、大胆で繊細、優美で力強い表現のできる超人的な選手です。
トリノ五輪以来、身体を故障し、競技生活から離れていましたが、3年半ぶりに、突如バンクーバー五輪に出場するために、復帰しました。五輪直前に現役復帰した理由を「この2年間、4回転をできない選手が世界で勝っている。それは耐えがたい状況だった」と語っています。プルシェンコ選手が復帰するというので、バンクーバー五輪出場の男子フィギュアスケーターは、4回転ジャンプの挑戦を余儀なくされるという、観客にとっては、興味深い展開になりました。
やはり、硬くて冷たい氷の上を4回転も跳ぶという行為は、競技者にとっては、リスクが大きいのですが、限界に挑戦する勇姿こそ、胸を打つのです。限界を突破した暁は、見る者に喩えようもない感動を引き起こします。
今回、不死鳥のように現れ、4回転を飛ぶと宣言することで多くのスケーターに影響を与えたように感じられます。
今回のバンクーバーで失敗しましたが、日本の高橋選手の果敢に4回転に挑んだ演技は、すばらしかったのです。彼も怪我を乗り越えての挑戦でした。
復帰後、間もないにもかかわらず、見事4回転ジャンプを成功させたプルシェンコ選手。金メダルは逃しましたが、フィギュア界を発展させようという王者の使命というべき、その姿勢には感動します。
表彰式で解説員の言葉に深くうなずきました。
「ただフィギュアスケートの未来のために、4回転を挑み続け、そして成功し続けたその姿勢。やはり、プルシェンコは偉大な、偉大な、そんな選手です。」
2014年母国ロシアにて開催されるソチ五輪に向けて、現役続行宣言。
「次はもっと難度の高い4回転を跳ぶ。負けてうなだれるようなことはしない」
その挑戦する姿は美しい。そうあるべきと、拍手をおくります。
●2004『ニジンスキーに捧ぐ』芸術点オール6.0の伝説の演技
http://www.youtube.com/watch?v=kkhn4KbisJc
●『ゴッドファーザー』39度の高熱での気迫に満ちた演技
http://www.youtube.com/watch?v=YD9ySNxG9Hw