ジャップス=デイズ日本人の日々■第15回
ジャップス=デイズ日本人の日々■第15回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/第15回■2024年 十二月 アフリカ奥地 ビザゴス共和国 アコンカグワ山近く 火が燃えていた。その炎を囲んで原地人達が昔から続く戦いの踊りを舞っている。しかしその踊りには若者はいず、年寄りばかりだった。アシュア族の戦いの舞いだ。「酋長、ありがとう」 日にまっ黒に焼けたアジア人が踊りを見ながら言う。「いやいや、ブアナ角田、お前は戦士だ。日本人一の戦士かもしれん。我々は勇者には勇者の血を持って答えなければならない」 曾長ワナガはしわくちゃの顔で言う。 「酋長、我々のロケ。トを発射したあと、すぐさま、ここから逃げてくれ」 「わかっておるよ、勇者角田よ。お前達はこれから大空のもっと遠くで戦かうじゃな。それは神々の戦いかもしれん」 「本当に協力をありがとう、ワナガ」 二人はだきあった。 「いやいや、我々は昔、日本人の技術者から大変世話になった。我々の国の農地が増えたのも日本人のおかげじゃ。この恩返しをしなければな。我々は文明人じゃなくなる」「ありがとう、ワナガ」 角田は涙ぐんでいた。恐らく、アシュア村の側に設置されたロケットランチャーからロケットが発射されたことはすぐ発見されるだろう。そうすれば、この村はJVOから攻撃され、皆殺しになるだろう。が俺達日本人は彼らにしてやれる事は何もない。なぜ彼らは我々日本人にやさしいのだ。 角田の目がしらはそれであつくなるのだ。「そうじゃ、ブワナ角田。わしのかたみをやろう。わしもその宇宙ステーションとやらへ行って戦いたいところじゃが、何せこの年ではな、体が動かんからな」 酋長ワナガから角田は短剣を受けとる。「でも、酋長、これはあなたの種族に古くから伝わる王者の剣では……」「いやいいんじゃ、もう我々には狩るべき動物など、残ってはおらん。地球連邦から受けとる年金だけで暮していける。それが我々から勇者の血をぬきとってしまった。若い奴らも都市へ出ていってしまい、もう本当の狩人などおらん。その血を感じるのはお前たち日本人だけじゃ。ああ、そうじゃ、一つだけ頼みがある」 酋長ワナガは思い出したように言った。 「何でしょう。私が役に立つ事でしたら」 6歳くらいの子供が、側にやってきた。 「これは私の孫ソンガじゃ、一緒に連れていってくれんか」 「でも、酋長、我々は……」 「わかっている。だがこの地にいても死の運命からは逃がれられんじゃろう。この子ソンガは、わしらアシュア族の狩人の血を受けついでいる数少ない子供の一人だ。あとの奴らは観光事業とかやらで、家畜化されておる。このビザゴスの国も、もう終りじゃろうて。なあ、東の勇者よ。頼む。この子を連れていってくれ。王者の剣とともに」 曹長ワナガの意志は強かった。 「わかりました。曹長がそこまでおっしゃるのでしたら」 角田はその子の肩をだいた。 「いいかい。ソンガ君、我々は明日、星へ行く」 「ああ、俺は、おじいの血をひいた最後のアシュア族のハンターだ」 ソンガは6歳とは思えない力強い声でいった。眼がキラキラと輝いている。 「地の上も、空の上もかわりはしない」 そういって、ソンガは白い歯を見せた。 「心強いよ、ソンガ」 「角田、ありがとう。この孫ソンガに本当の戦いというものを、そして日本人の勇者の血を見せてやってくれ」 「わかった。ワナガ、約束しよう」 「いいか、ソンガ、角田達は、日本人の中でも選ばれた勇者なんじゃ。昔、日本が滅びそうになった時、神の怒りの風が吹いて日本を救ったという事実がある。角田達もそれなんじゃ。神の風なんじゃ」 「ねえ、角田、あんたは一人で行くのかい」 「いや、我々は、七人だ」 「そうかい。風の七人かい」 「たぶん、生き残れるのは数人だろう。あるいは全員死んでしまうかもしれない。が我々が失敗すれば、多くの日本人が死ぬ事になる」 「角田、あんたが死んだら、俺が葬式をしてやるよ」ソンガが言っ「ありかたい。頼むぞ、ソンガ」 角田は笑って答えた。 アシュア村の近くの広場には、広大な映画のオープンセットが作られていた。 イスラエル製作の映画「アフリカのロケ。ト」の撮影という事になっている。 アフリカの魔術師たちの魔術でロケットを打ちあげるというストーリーになっている。 事実、カタパルト形式で、成層圏まで小型のロケ。トを打ち上げ、そこでロケットを数機組み上げ、宇宙ステーションまで行く予定なのだ。 地球の各地で、日本人に協力してくれる人達の助けを受けて、ロケットが飛び立とうとしていた。(続く)1988年作品 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/