水生大海 「少女たちの羅針盤」
先日、原書房様から頂いた水生大海さんのデビュー作「少女たちの羅針盤」を読み終わりました。この作品は、あの島田荘司先生が選者を務める第一回「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の優秀賞受賞作。大賞受賞作の松本寛大さんの「玻璃の家」も先日読みましたが、こちらはアメリカを舞台にし、島田先生の提唱する「21世紀本格」を実践した作品で、この賞から飛び出したのも納得の力作でした。対照的に「少女たちの羅針盤」は女子高生4人組が結成した演劇ユニット「羅針盤」を軸とした青春ミステリ。謎の脅迫者に怯える女優を視点とした現代パートと「羅針盤」結成からメンバーが突然の死を迎え活動を休止するまでを描いた4年前の過去パートが交互に描かれる構成。現代パートは、撮影の合間に脅迫を繰り返される事で精神的に追い詰められて行く様子がサスペンス溢れる描写で描かれており、一体誰が脅しているのか、そもそも誰が脅されているのか、と興味は尽きません。それを支えるのが過去パート。メンバーの視点で描かれて行く「羅針盤」の活動は思わず応援したくなる紆余曲折振り。ストリートライヴやコンクールと新たなチャレンジをする度に新たな問題にぶつかり、それを乗り越えようともがく4人。青春ミステリ好きなんで、こういうの大好き。それでいながらも、話が進むに従い徐々に火種になるのではと思わせる描写が増えて行き、遂には・・・。眉に唾をつけなければ、まんまと騙される見事な伏線の数々が回収されるラストは本当に新人離れしています。若干、綺麗な結末になり過ぎた感もありますが、大賞受賞作を含めて今年読んだ新人作家さんの作品では1番のお気に入りです。このクオリティの作品を今後も安定したペースで供給して欲しいです。個人的には、青春ミステリの新たな名手としてシリーズ作品を読んでみたいです。最後になりましたが、一言お礼を。ミステリ読みにとって、こんなに楽しくありがたい試みに混ぜて頂いた原書房編集部の皆様、本当にありがとうございました。