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2007.04.22
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カテゴリ:非現実な話
――マイヤー島、地下、エビルクナプラ





あたりには溶岩の熱気と硫黄の臭気とが立ち込めていた。
澱んだ空気をつたい、さまざまな音が岩壁や天井に反射して、
くぐもったような響きを形づくっている。

剣戟や弓弦のうなり

戦士の雄叫び

呪文の詠唱

そして

魔物たちの苦悶のうめきと、断末魔の叫び。


これらの音律をどこか遠くに聞きながら、
陰謀と策略の悪魔は、ぎり、と奥歯をかみ締めていた。


(たかが、たかが人間ごときに……!)


やがて配下の魔物がすべて斃れると、
マタリエルの身体は神殿の広間へと喚び出だされ、
いつものように冒険者たちに戦いを挑まれる。

マタリエルはアクモディウムを代表する五将軍のうちの一人である。
しかし今の彼が死力を尽くして戦っても、
振るう鞭がかつてのうなりを聞かせることはない。
数百年前の彼からすれば児戯にも等しいはずの冒険者の攻撃も、
やすやすと彼の身体に傷をつけ、彼を跪かせ、地の底へと落とし込んでいく。

なぜならば、あの時――
クロノス城下での最後の戦闘に敗れたとき以来、
彼には幾重もの封印と呪縛と制約とがほどこされているのだから。

意識を残したまま、絶えず苦痛と屈辱とを与え続けられる。
それは残酷なまでに計算しつくされた罠だった。


地に没みながら、マタリエルはこれまで幾度となく考えたことを思いかえしていた。

もしこれが悪夢ならば、いつか醒めるだろう。
もしこれが現実ならば、いつも同じ結果になるとは限るまい。

しかし、

もうどれほどの時間が経ったろうか。
もうどれほど同じことを繰り返したろうか。



強い酒を流し込んだ後のように、屈辱感が喉の奥からこみ上げてくる。


(おのれ、おのれっ…! 神にさえ等しき、この我がっ…)


身を灼くそれは、地下を流れる溶岩よりもなお、熱い。

計り知れない量の憎悪は激情の奔流となって、
日々目の前にあらわれては自らを切り苛む『人間ども』へと向けられた。


(今に…見よ…!)


瞑られた瞼の奥では、かつて自らが率いる軍勢が蹂躙したその美しい街を、
ありありと思い描くことができる。


(闇に蠢く、我が手足たちよ…!)




かっ、と眼を見開く。



渾身の力を込めていくつかの呪縛を振り解き、制約を振り払う。



「ハハハハハハハハハハハハハハ」



咆哮にも似た笑声をあげながら、



マタリエルは『術』を発動させた。






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最終更新日  2007.04.22 20:34:45
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