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カテゴリ:産婦人科医療
今たまたまテレビをつけたら、「ジャーナる」とかいう番組が助産院での出産のルポをやっている。
病院での出産は不自然だが、助産所での出産は自然で好ましい・・・ 未だにこのような無責任な報道がまかり通ることにあきれる。 病院でしか母子の命を救えないという出産はそれほど多くない。有能な助産師が健診した上でリスクがないと思しき症例を選択すれば、助産院で出産したとしても99%以上は問題ないだろう。 しかし今の日本で問題になっているのは千分の1とか万分の1の割合で起こる周産期死亡や母体死亡をどうして防ぐかということである。 テレビに出演していた助産師は3800人の出産をてがけてきたという。超ベテランというわけだ。しかし1万5千人以上の出産に立ち会ってきた私の経験からすると、たかが3800例である。スクリーニングをすり抜けて、千分の一、万分の一という確率で起こる危険な出産に対する経験は少ないだろう。 思いつくままに病院でなければ救えなかっただろう症例を挙げると、 ・何のリスクも無く安産で出産したものの産後出血が止まらない。後腟円蓋から後腹膜腔の奥にまで拡がる軟産道裂傷で開腹し内腸骨動脈を結紮してようやく止血。10000cc以上の出血があった。(輸血で血が2回入れ替わってしまうほどの出血) ・これまた安産で元気な赤ちゃんを出産したものの、児の娩出直後から子宮内から大量の出血があり、胎盤用手剥離を試みたところ癒着胎盤と判明。直ちに開腹し子宮摘出を行い一命を取り留めた。約5000ccの出血であった。 ・スムースに分娩が進行していたが、児の娩出前に突然の性器出血があり。児心音に遅発一過性徐脈を認めた。直ちに帝王切開を行い児を救命。果たして胎盤早期剥離であった。 等々 これらはいくら有能な助産師が妊婦健診を行ったところで事前に予測することは不可能であり、医療機関で無ければ救命できない。 テレビでは「助産院は病院と提携しているため、何か起こったときはすぐに搬送してもらえるので安心」というような安易なことを言っていたが、提携の実情をわかっていない。つい2~3年前までは、提携先の医療機関が産科でなくてもよかったのである。名前だけ貸しているようなところも多かったのが現実である。ましてや上記に挙げたような症例では搬送する余裕は全く無い。 もちろん出産場所の選択は本人の裁量である。しかし「千分の一、万分の一の不幸な出来事は運と思って諦める」という気持ちがなければ、助産院での出産は選択すべきではない。実際に悲劇が起こっても、助産院を礼賛したマスコミは何ら責任を取ってくれない。 そのあたりの事情を理解した上で助産院を選ぶ人は選べばいいと思う。 「助産院での出産は感動的だった」という話は外に出てきやすいが、「助産院であるが故に不幸な転帰となった」という話は外には出てきにくいものだ。 私の意見としては、助産師は病院内で常に産科医や新生児科医が駆けつけることができる状況でしか出産を扱ってはならない。もちろん全例で血管確保の励行や清潔な分娩介助など、医療機関としての基準を保って行う。いわゆる院内助産所という形態である。助産師と医師が協力していく道は他にない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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