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カテゴリ:産婦人科医療
前回の日記のコメントにもあったように、24時間テレビで8人の子供を全て無介助分娩で産んだというとんでもない家族が紹介されていた。申し訳程度に「無介助分娩は危険です」のようなキャプションが入っていたが、基本的には安易な「子だくさん家族礼賛」番組である。いったいなんでこんなものをわざわざ放映する必要があるのだろう?
無介助分娩で検索してみると・・・ ここでは無介助分娩を希望する女性に対して諌める回答が多く寄せられている。無介助分娩が危険であることは一応一般の方にも理解されているようだが、少し具体的な数値を挙げてみよう。 出産の前後で赤ちゃんが亡くなることを周産期死亡という。厳密に言えば出産1000件当たりの妊娠28週以後の死産数及び生後1週間未満での新生児死亡数を加えたもので、平成19年の日本では2.9である。これは世界の中で最も低い。 昭和25年当時の数字をみると、日本の周産期死亡率は欧米先進国の30に後れを取って約50もあった。何と今の17倍もの死亡率であった。この当時の日本では病院で出産することはまだ一般的では無かった時代である。その日本が今では世界で最もいい成績をあげているのである。分娩に対する医療の介入の成果は正にここにある。 ただし、周産期死亡率が1/17に減ったことを個々の妊婦が実感できるわけではない。昭和25年当時でも1000人中950人の赤ちゃんは命を失っていないわけだから、多くの妊婦は「お産は自然に任せておけば大丈夫」という印象を持っていただろう。 そのせいか、先日も「まあ、お産なんていうものは自然現象で、昔からお医者さんのお世話にならなくても皆ちゃんと産んできたわけですからねー」などと馬鹿なことを言うヤツがテレビに出ていたりする。 多くの死産や新生児死亡を見てきた医療関係者や、医療行政に携わる人間にとっては周産期死亡率50は見過ごせる数字では無かった。なんとか出産をもっと安全なものしようと営々と積み重ねられた努力の結果が、2.9という数字なのだ。 このことを踏まえれば、無介助分娩などというものを少しでもいいイメージで放映するなどという愚行は、産科医療に心血を注いできた先人の努力を愚弄するに等しい。 さらに言えば、無介助分娩ははっきり言って悪質な児童虐待である。何の選択権も無い赤ちゃんの命を意図的に危険に曝すからである。「8人の子だくさんで家事に仕事に毎日奮闘中」などという牧歌的な放送をしている場合では無い。 無介助分娩に伴う周産期死亡率は、少なくとも前述の昭和25年当時の数字である50を上まわるだろう。百歩譲って50程度であると見積もると、 1回の出産で赤ちゃんを失う確率は50/1000=0.05 失わない確率は1-0.05=0.95 8回の出産で1回も赤ちゃんを失わない確率は0.95^8=0.66 8回の無介助分娩で、赤ちゃんが1人も死なない確率は0.66程度であり、これはコインの裏表を当てるよりは少し勝率がいいという程度の運任せのギャンブルに等しい。だから虐待なのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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