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2010.10.21
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カテゴリ:産婦人科医療
ブログはしばらく更新していないと、新しい記事を書くきっかけがなかなかつかめないものですね。それほどここ最近は変化が無かったということでもありますが、昨日は久しぶりに妊婦さんの虫垂炎(いわゆる盲腸)の手術に立ち会いました。
妊婦さんの虫垂炎は診断がつきにくく重症化しやすいといわれており、早めの診断と手術が必要と言われています。幸い外科医の協力がすぐ得られて事なきを得ました。

ところで、手術によって切除したものはすべからく病理検査(標本として固定し顕微鏡的に確定診断をつける検査)に提出するのが原則です。少なくとも私が医学生~研修医のころはそう教わってきましたし、今でもそうしています。
なぜなら手術前の自分の判断が正しかったのか?とか、他に何か見逃している病変が無いか等、患者さんはもちろん、医師にとっても極めて重要な情報が得られるからです。
切除された虫垂には肉眼的に見て早期の炎症所見がありましたが、当然これは病理でも確認すべきと思い提出しようとしたところ、外科のドクターから「切除した虫垂を病理検査に提出しても保険請求が通らない。つっかえさえれくるから出さない方がいいですよ。おかしな話ですが。」と言われました。

病理検査にも当然コストがかかります。通常は健康保険の適用になりますから、コストの7割は保険から、3割が患者負担となります。保険請求が通らないということは、健康保険から支払われるべき7割が支払われず、病院の持ち出しになってしまいます。
これは明らかに医療費抑制の狙いがあって、国の方針として「虫垂炎ぐらいいちいち病理検査しなくても見りゃわかるだろうから、金のかかる病理検査なんかするな」ということでしょう。
どこの病院も経営的には苦しいですから、外科医は自ずと虫垂を切除しても病理検査に提出できなくなります。

一見理にかなっているようで、よく考えてみるとこれはとんでもないことです。
例えば切除した虫垂に肉眼的にははっきりとした炎症所見が無い場合、外科医は自分の診断が正しかったのか否か病理検査で確認するのが通常です。顕微鏡的に炎症所見があれば、診断が正しいことが証明されたことになりますし、そういった所見が無ければ自分の診断プロセスのどこかに問題があったのかどうか、また患者の痛みの原因は別にあってまだ治療が必要なのではないかはないかといったことを考える必要があります。
医師は自分の診療行為の結果を常にフィードバックし、医師としての技量を高めていき、それをまた患者さんに還元するべきですが、切除したものを病理検査に提出できないようではそれがむずかしくななります。

悪いように勘ぐれば、いいかげんな診断で開腹し虫垂切除を行っても、お咎め無しということになりかねません。正常な虫垂を虫垂炎として切除しても病院の収入になり、病理検査に提出しない以上、誤診である証拠が残りません。もちろんそんな外科医はいませんが、理屈としてはそうなります。

「手術を行う医師は摘出したものを必ず病理に提出し、自分の診療を厳しくチェックすべきである」・・・今は医学部の学生にそんな基本的なことも教えられなくなっているのでしょうか。





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Last updated  2016.09.30 16:04:49
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