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カテゴリ:突発性難聴体験記
前回の続きの前に、突発性難聴治療の現況を簡単に述べると、ここ20年以上治療法は進歩していない。
よく「早期に治療を開始しても治るのは3分の1、改善するが元に戻らないのが3分の1、全く治らないのが3分の1」といわれているが、その状態が20年以上変わっていないのである。おそらくほとんどの病院でステロイドが第一選択として使われているが、本当に有効なのかどうかについても未だに結論が出ていない。(実際私の場合は何の効果も無かった。)だからこそステロイド以外のいろいろな治療法が試みられているわけである。 だが耳鼻科医にはどうも「ステロイド信仰」のようなものがあるように感じる。それはいいとしても、ステロイドが効かなかった場合に柔軟に他の治療法を試みるという考えが無く、「ステロイドが効かなかったからあなたは治りません」で終わってしまう医師もいるのは問題だ。自分の土俵だけでしか勝負せずに、患者が治るチャンスを奪ってしまうことになる。 そもそも「突発性難聴」という病名自体一つの疾患を表しているのでは無く、原因のわからない急性の内耳障害による難聴の総称である。「原因はストレス」などと平気で書かれていたりするが、それは「原因がわからないので一応そういうことにしておこう」という程度の意味しかない。そもそもまともに社会生活を送っていてストレスの無い人などいるはずもない。おそらく原因はいくつかあって、患者個人個人によって異なるものだろう。だからある人はステロイドが効き、ある人は血管拡張剤が効き、ある人は抗凝固剤が効き、と作用機序の全く異なる薬剤が有効であったり無効であったりするのだろう。 話は戻ってデフィブラーゼだが、これは血液中の凝固因子であるフィブリノゲンを減少させて血を固まりにくくする薬剤である。血をサラサラにすることにより末梢循環の血流をスムースにして、内耳の修復を促そうという目的で使用される。突発性難聴に対する効果はステロイドよりも優れているというデータを出している病院もある。 ただし、フィブリノゲンを減少させるということはもし治療中にケガなどをしたときに血が止まらなくなる可能性があり、かなり慎重に使う必要がある。 突発性難聴は非常に患者のQOLを下げる病気だが、死ぬ病気では無い。死なない病気に対して危険な副作用を有する薬を使うことには確かに耳鼻科医は一抹の不安を覚えるのかもしれない。しかし私も医者のはしくれ、それぐらいの危険は百も承知している。特に私の専門である産科では、常位胎盤早期剥離によってフィブリノゲンが減少し、妊婦が死ぬこともある。 その上で担当医にお願いして、担当医も快く「やりましょう」と言ってくれたのである。だからこそ4月2日のうちに入院し、夕方にはデフィブラーゼの点滴が始まるものと待っていたのだ。 ところが、耳鼻科の教授が「まずはステロイドの効果を見極めてからにしろ。効果が無いなら来週の月曜日4月6日からデフィブラーゼを使え」と言い出したのだ。担当医がすまなさそうに病室にその旨を告げにきた。 「なんでやねん!?なんのために今日入院したんや!前医はステロイドだけではあかんからこそ早めに大学病院に紹介してくれたのに。」 2週間のゴールデンタイムを過ぎれば、どんな治療も格段に効果が落ちる。その前にやれることは何でもやっておくべきなのだ。教授はそのことをわかっているのだろうか? 「なんでもかんでもやって結局何が効いたのかわからない」というのは学問的な見地から納得しにくいのかもしれないが、ステロイドが効く場合は最初の数日で急速に良くなり、その後は徐々に快方に向かうことが多く、私の場合むしろ悪化しているのだからさらに4日間も貴重な時間を無駄に過ごすのは無意味である。 私としてはあまり好きなやり方では無いが、大学の懇意にしている別の医師から口をきいてもらって、教授には内緒で何とか明日4月3日からデフィブラーゼを開始するよう段取りしてもらった。1日遅くなってしまったが、それで妥協せざるを得まい。入院当日はやむなくステロイドの点滴のみで就寝となった。静かな病室では耳鳴りが気になり眠剤無しでは眠れない。 続く・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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