|
カテゴリ:突発性難聴体験記
右耳は1000ヘルツを中心に聴力が低下していることは前にも書いたが、入院している間に重大なことに気がついた。
聴力が低下している周波数帯では周波数が正しく認識されていないのである。病院で行う聴力検査は、125、250、500、1000、2000、4000、8000ヘルツの各周波数の純音を小さい音から聴かせて、聴こえたらスイッチを押すというもので、果たして1000ヘルツが1000ヘルツとして認識されているかどうかという質的な問題については一切わからない。 私のiphoneには任意の周波数の純音を発生させるソフトが入っている。入院中ヒマにまかせて周波数を徐々に変えてどのあたりから聴力がおちているかを調べてみた。 700ヘルツまでは左右とも同じ大きさで聴こえるが、そこから周波数が高くなるにつれ徐々に右耳では聴こえにくくなる。800ヘルツでは左で聴く倍ぐらいの音量にしないと右では聞こえない。さらに810、820ヘルツと順次上げていくと850ヘルツあたりから右耳ではさらに聴こえにくくなるとともに周波数にズレが出てくることに気がついた。 健常な左耳で聴く850ヘルツの純音が右耳では830ヘルツぐらいに下がって聴こえる。また音質も割れたような濁ったような感じになってくる。そして900ヘルツを超えたあたりから逆に右耳で聴く周波数が上がって聴こえるのである。1000ヘルツの純音は右耳では1300ヘルツに聴こえる(これはピアノの高いシの音がミの♭あたりまで上がってしまうことになる)。ただし相当に音量をあげないと聴こえないのだが。 このあとはずっと右耳での周波数は上がった状態が続くが、1400、1500ヘルツとなるにつれ徐々に左右差が無くなり、1650ヘルツで左右同じ周波数に聴こえると同時に音量も左右均等になる。 つまり突発性難聴は単に聴こえにくくなるのが問題だけでなく、音の性質まで変わってしまうのだ。 この問題をネットで調べたところ、diplacusisという言葉がみつかった。 http://hearinglosshelp.com/resources/diplacusisthe-strange-world-of-people-with-double-hearing/ 一般の人向けに平易な表現で書かれているが、内容はかなり詳しい。 diplacusisに対する適当な日本語が無いようだが、「二重聴」とでも訳せばいいだろうか。pitch perception shift(周波数認知の変動)ともいう。要するに左右の耳で周波数の認識にズレが起きる状態のことである。突発性難聴に限らず騒音性難聴などであっても、要するに内耳の有毛細胞が壊れてしまうことにより周波数の選択性が狂ってしまい起こる現象らしい。 私の場合幸いにして音楽を聴くと左右に周波数のズレは感じられないし、退院後実際のピアノで1000ヘルツあたりに相当する高いシの音を弾くとちゃんと右耳でもシの音に聴こえた。これはおそらく実際の楽器の音は複雑な倍音の総和として音程が認識されているのと、周波数のズレている帯域は聴力が低下しているおかげであまり影響を与えないのだろうと思われる。 しかしピアノの1000ヘルツのシの音をよく注意して聴くと、右耳では明らかに音量全体が小さく感じられるのは当然として、「キン」という感じでわずかに1300ヘルツ相当の音が乗っかっていることに気づく。予備知識がなければ気づかない程度で実質上演奏するには問題無いレベルだが。 しかし現実に聴力障害のためdiplacusisが顕在化し、左右の耳でピッチが合わないため演奏不可能となり楽器を手放すミュージシャンも少なくないという。しばらくは無理としても、いずれは音楽を再開したいと思っている自分としてはかなり恐い話である。 diplacusisについて担当医に尋ねてみると、その存在すら知らなかった。回診の時に講師と思われるやや年配の耳鼻科医と話したときも、「へー、そうですか。そりゃ内耳が病気になってんだから周波数も狂うでしょう。」で終わり。私としては耳鼻科医なら当然知っているし興味も持っているものと思っていただけにかなり失望した。そのへんから治療の糸口はつかめないのだろうか・・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[突発性難聴体験記] カテゴリの最新記事
|