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カテゴリ:突発性難聴体験記
前にも書いたように、高圧酸素治療を受けるにはいろんなハードルがあって、設備が遊んでいるにもかかわらず突発性難聴患者に使えないという事態が起こり得る。
私の治療経過では高圧酸素治療(Hyperbaric Oxygen = HBOと略す)の開始が遅れたことが悔やまれることはすでに述べたが、HBOは果たしてどの程度突発性難聴に有効なのだろうか? 他の方のブログを読んでいると、私と同様にHBOまでたどり着かないうちにゴールデンタイムを逃してしまう人が多いようだ。もしHBOが本当に有効なのであれば多くの人が治癒するチャンスを奪われているのでは無いか。 ちなみに私が入ったのはこのような1人用のカプセル けっこう窮屈です。 このように数人が一度に入れる大きなものもある これの方が楽そうだな・・・ HBOの有効性に関しては多くの論文が出されているが、日本高気圧環境・潜水医学会の学術委員会から2014年3月に発表されている「高気圧酸素療法 エビデンスレポート2013 高気圧酸素治療の科学的根拠に基づく臨床的研究」 が参考になるだろう。 HBOはもちろん突発性難聴だけでなく、潜水病、ガス壊疽、脳梗塞、腸閉塞等々いろんな疾患の治療に用いられている。この論文ではそれら各疾患に対する有効性をこれまでに行われてきた臨床研究のうち信頼に足るものだけを基に検証している。 結論を先に言ってしまうと、 「突発性難聴に対する高圧酸素治療の効果は複数のRCT(後述)で有効性が示されており、(ステロイドなどの)他の治療法と比較しても最も有効性の高い治療法と考えられる」 ということになる。 わかりやすく解説を加えると以下の様になる。 果たしてある治療法が有効かどうかを調べるにはどうしたらいいか? これは極めてむずかしい。 例えば100人の患者にある治療を行って30人が治癒したとしても、それだけではこの治療法は有効であるとは言えない。病気というものは治療しなくても自然に治る人が相当数いるのが普通だからである。 従ってある治療法が有効か否かを判断するには、その治療を行わなかった人達と行った人達との間で治った人の割合を比べる必要がある。 HBOの場合で言えば、HBOを行わなかった患者100人(対照群)と、HBOを行った患者100人(HBO群)との間で治癒率に差があるかどうかを比較する。もしHBO群の治癒率が対照群の治癒率に比べて、偶然の範囲を超えて高かった場合(これが大事なところ。偶然に起こり得る誤差範囲の差では有効とはいえない。「有意差がある」とは、偶然の範囲を超えているということである)に限りHBO治療は有効であるということになる。ただし対照群と治療群とでは重症度や年齢等が偏らないようにランダムに振り分ける必要がある。 「ランダムに」ということは研究者の意図が入らないようにということである。「この患者は軽症だし高圧酸素治療までやらなくてもいいだろう」などと恣意的に振り分ければ、結局重症例ばかりがHBO群に入ってしまう。これではHBO群の治癒率を対照群と比較することに意味が無くなる。 ランダム化するためには、例えばカルテ番号の末尾が偶数なら対照群に、奇数ならHBO群になどといった患者の状態に左右されずに振り分ける方法が採られる。 これがRCT(Randomized Control Study ランダム化比較試験)である。RCTによらなければ治療の有効性を正しく判断できないというのが医学の常識である。 さてこの論文では、Cochran review(世界中の臨床研究、特にRCTを中心に総合的に評価するシステム)によって行われた7つのRCTの解析結果を引用している。その内容は ・2つのRCTにおいては聴力閾値の25%以上の改善(例えば60dbまで聴力閾値が上がっている患者が45db以下に改善)をカットオフ(有効と無効の境目)とするとHBO群で改善した患者が有意に(=偶然の誤差以上に)多かった。 ・4つのRCTにおいてはHBO群では対照群よりも平均して15,6dbの有意な聴力改善がみられた。 の2点である。このことから、7つのRCTのうち6つで高圧酸素治療の有効性が証明されたことになる。ただしこれらのRCTはいずれも発症14日以内に治療を開始した症例を対象としている。 一方ではほとんどの耳鼻科医が第一選択として使用するステロイドはどうだろうか?これもCochran reviewの評価を引用している。 ところが世界中の文献を探しても評価に耐えるRCTが3つしか無いそうである。これは私も少し驚いた。そのうち1つのRCTではステロイド治療群に有意な改善が証明されたが、他の2つのRCTではステロイドに有意な治療効果を認めなかったとしている。ステロイドは突発性難聴に対して充分な検証が無いまま何となく今まで使用されてきているのである。 さて他の薬剤についてのRCTについても言及した後に、著者は 「突発性難聴に対する高圧酸素治療の効果は複数のRCTで有効性が示されており、(ステロイドなどの)他の治療法と比較しても最も有効性の高い治療法と考えられる」 と結論づけている。 もうここまで読めば、「突発性難聴にはHBOは無効」などという主張は通りようが無いだろう。むしろ何よりも優先して行うべき治療と言ってもいいぐらいだ。 ステロイドを使用することに反対はしないが、そのために貴重な時間が過ぎていき、より科学的裏付けのある高圧酸素治療の開始が遅れてしまうのはどう考えてもおかしいのではないだろうか? 続く・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.05.23 22:14:40
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