低俗番組
ちょっと重くなったので今日は話題転換。先日フジテレビで「日本がおかしい!現役ドクター大告発!アナタの命を救う病院教えますスペシャル」という番組があったそうだ。前回この手の番組をみて内容のあまりのお粗末さにげんなりして今回はみていないのだが、「産婦人科医は日曜日にゴルフに行くために陣痛促進薬を使っている」などという発言があったらしい。そしてその根拠のひとつに平日に比べて土日の出産が少ないことを挙げていたそうだ。相変わらず低俗な下衆の勘ぐりをするものだ。少なくとも私の知っている限り日曜日にゴルフに行くために薬を使っているような産婦人科医はいない。ほとんどの産婦人科医はできれば陣痛促進剤を使わずに出産できればそれに越したことはないと思っている。産科に限らずどんな薬でもそうである。使うことに伴う危険よりも使わないで放置しておくことの危険の方が大きいときには薬を使わざるを得ないのである。なぜ土日の出産が少ないって?予定を立てて帝王切開を行う場合に敢えて人手の少ない土日に手術を行うことはしない。緊急の場合を除いてほとんどの帝王切開は平日に行われる。現在日本では約20%の出産が帝王切開である。高齢出産や多胎などハイリスク妊娠が増えてきたことや裁判増加のための防衛医療が原因だが、ともかく出産の2割は予め平日に行われるよう計画されているのである。また医学的に分娩誘発が必要な場合にも陣痛促進剤の危険を知っているからこそ人手の充分な平日に計画するのである。土日の出産が少ないのは当たり前のことだ。分娩予定日を10日、2週間と過ぎても陣痛が来ない場合には子宮内で胎児が死亡する率が上昇してくることを我々は知っているし経験もしている。目の前の患者さんをそんな目に遭わせたくないから薬を使って出産にもっていくのである。破水してから1日、2日と日が経つと胎児に細菌が侵入して重症の感染を起こすことがある。胎児を助けるためには薬を使って出産を早めないといけない場合がある。その他いろいろな場合があるが、いずれにせよ医学的に見て薬を使用する方が患者さんのメリットになると判断したときにやむなく慎重に使うのである。もし絶対に薬を使うなというのであれば、自然の出産を待つことが危険である以上帝王切開に頼らざるを得ない。ぶっちゃけ医師側の都合だけで言えば薬を使いながらハラハラするよりも、さっさと帝王切開で出産させた方がよっぽど楽なのである。しかし帝王切開で出産すると明らかに産後の回復は遅くてつらいし、次回の妊娠・出産にリスクが生じるなど患者さんに対するデメリットが大きいのでできれば経腟分娩させてあげたいと思っているのが普通の産婦人科医である。もし患者さんがこんなクソ番組を信じて陣痛促進剤を使用できなくなればむしろ我々は楽になるぐらいだ。