村上春樹を歩く 綿宗 鰻まむし
昭和58年の「群像」に村上春樹は奈良の味として紹介しいている店がある。旧伊勢街道の郡山にある店である。現在では24号線のバイパスとしての京奈和自動車道のすぐ横になる。道はバイパスによって分断され、迂回路を使わなければならないほどの不便なところになっている。旧道ということもあり、幅は3メートル弱であり、車は履行できないほどの幅である。店の名は「綿宗」。昔は旧道の料理旅館という看板を揚げていたが、現在では通る人も居ない。100年以上も続く老舗で、現在でも鰻料理を提供している。古い看板を見るとそこには旅館という名称が付いている。玄関はこのようになっているが、現在では使用されていない。駐車場(建物の横に3台分程度)がある南側の入り口を使用する。中に入ると旅館の趣のある廊下。手前に小さな個室が二つあり、奥は大きな部屋になっている。個室は八人から十人程度が入ることができる。天井は非常に凝った造りである。ここで、提供されている料理は「まむし」のみ。まむしは普通の鰻丼や鰻重のような提供方法でなく、関西の古い鰻料理である。ご飯に鰻のたれをしっかりと混ぜ、ご飯を半分入れたところに鰻を置き、その上からご飯をのせる。鰻のサンドイッチのような形である。真ん中でご飯を使って「蒸す」から「間蒸し」ということらしい。丼一杯のご飯が入っているのでとてもずっしりとした重量。このご飯の中に大きな鰻が二切入っている。香ばしいご飯に、脂ののった鰻。鰻好きにはたまらない懐かしい味である。というのも今から50年前ぐらいには京都市内でもこのような「まむし」が提供されていた。鰻の肝吸いは口の中をすっきりとさせる美味しさだ。大人の男性でも十分に満足できる量である。昔の旅人は疲れた体をたっぷりのご飯と、脂ののった鰻で生気を養っていたのだろう。村上春樹が舌鼓を打って食べて料理が、現在でも同じ形で食べられるのは嬉しい。