カテゴリ:パブリックリレーションとCSR
先週の8月22日頃、「NECのケータイ電話の辞書に中国人を侮辱する言葉が含まれている」と言うニュースがネットを中心に広く流れました。
このニュースは、NECが2004年に生産・販売したGSM携帯電話"730"に関するもので、安徽省の地方紙『新案晩報』への投書から端を発したようです。 安徽省宿州市の李某さんが、新しくNECケータイを買い、付属する辞書をいじっていたら、中国人を侮辱する"中国狗"(狗は犬の意味)という言葉が含まれていた、という事で『新案晩報』へ投書し記事になりました(『中国金融網』の転載記事)。この記事は数多くのニュースサイトに転載されるようになり、いくつかの人気BBSには、このニュースに関連して、NECや日本ブランドの製品に対する反発のメッセージが数多く書き込まれました。 "中国狗"という言葉をめぐっては、実は3年前に大きな出来事がありました。中国国内企業である中電通信公司が生産販売した"CECT"というブランドのケータイ電話の英文起動メッセージが"Hellow Chow"と表示されることに、中国国民から反発が起きたのです。英語の"Chow"は中国語に訳すと"中国狗"になります("チャウチャウ"のことなのか不明ですが、元来"chow"という英語は中国語を起源としているようです)。CECT側は"可愛いペット"の意味だったと釈明しましたが、直ちにこの起動メッセージを変更することにしました。 これは、中国国内企業の問題であるにもかかわらず、ネットのBBSなどでは「日本人が仕掛けたものだ!」ということになってしまい、"抗日活動"の根拠の一つにされてしまったりもしました。 この出来事は雑誌『セールスとマーケット』が選ぶ「2003年度十大企業危機PR」のひとつにも挙げられています(雑誌『セールスとマーケット』ウェブサイト)。 今度の出来事に関してNECはほぼ沈黙を通したようですが、騒ぎが大きくなり出した8月23日に、中国の電子辞書のトップメーカーである金山公司の総裁が複数のメディアに対して「"中国狗"には侮辱的な意味は無いと思うが、中国国民の感情に配慮して"技術的処理"を行う」と発言し、金山公司が編集する電子辞書のデータから"中国狗"という言葉を削除する方針を明らかにしました『金融界』ウェブサイト)。 実は、問題となりかけたNECのケータイ電話の辞書は、この金山公司が提供したものだったのです。NECは中国の電子辞書トップメーカーである金山公司の辞書をケータイに組み込んでいたわけです。それで、金山公司が先手を打って対応に乗り出したのでしょう。"中国狗"と言う言葉をめぐる騒ぎは、これで収まるのか、引き続き"日本ブランド攻撃"の根拠の一つにされていくのか、いまのところは何ともいえません。 とは言え、ここ1週間のネット上の報道やBBSでのメッセージを通じて、一部の中国人の間に「NECのケータイが中国人を侮辱した」と言うイメージが植えつけられたのは事実でしょう。 この出来事を知って、ソニー製パソコン用バッテリーの問題を思い出しました。過熱して発火事故を引き起こしたとして、アメリカのDELLがソニー製バッテリーを使用している自社ブランドのノートPC410万台をリコールしたという話です。この問題はAppleやLenovoなどDELL以外のノートPCにまで波及しました。 多くの報道に触れてみると、不具合のあるバッテリーをパソコンメーカーに供給したソニーだけが深く傷ついてしまい、そのバッテリーを採用したノートPCのメーカーは被害者的な雰囲気になっているように思えます。 ところが中国における今回のNECのケータイ電話の辞書問題では、不都合とも受け止められる辞書データをNECに供給した金山公司はほとんど傷つくことなく、寧ろ堂々とした潔いイメージさえ形成することに成功し、その辞書を採用したNECのイメージが随分と損なわれてしまったように思えるわけです。 製造物責任云々の法的議論は別にして、やはりパブリック・リレーションが大きく影響しているのでしょう。 NECの出来事の場合、「辞書は中国企業である金山公司のものだ」などと声高に宣言したとしてもマイナス効果だったかもしれません。ただ金山公司がトップ(総裁)自らメディアに説明したように、迅速な対応で"削除"の方針を表明したなら、傷は浅くて済んだのかもしれません。いずれにしても、中国における日本ブランドのパブリック・リレーションやメディア対策は、ビミョーかつ難しいものです。 ところで"中国狗"と言う言葉。旧日本軍が中国人を侮辱する意味で使ったとされますが、金山公司の辞書の説明文(英語の"chow"に対応する中国語)としては「中国の犬」ということになっています。"中国狗"に対する言葉としては"日本猪"(猪は豚の意味)。この言葉は、明らかに日本人を侮辱する言葉として認識されています。 個人的には、ブタといわれるよりイヌと呼ばれたほうが、まだましにも思えるのですが....。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.08.30 13:32:32
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