激痛
咽元過ぎれば熱さ忘れると言うけれど、その瞬間は間違いなく、忘れようもなく熱い訳で、人間に取って過去や未来でなく今こそが尤もリアルを感じる瞬間なのだ。常に瞬間瞬間を生きていて、その積み重ねが未来であり過去だ。将来的に痛くなくなろうとも、今痛いのでアレば、それが何の慰めになるだろうか。物凄く久しぶりに、歯医者に言った。下顎の奥、親知らずを抜く為だ。昔は注射と歯医者が大嫌いだった私であるが、(・・・と言っても無論、今では大好きだと言うわけでもない)我慢出来ないものでもないし、仮に出来なかったとしても泣いたり喚いたり出来るほどの素直さは残ってない。巧い下手で言うと決してベテランと言う感じではなかったが、あるいは単に私の親知らずが根性曲がった性悪だっただけかもしれないが、抜歯には結構時間が掛かったと思う。まぁ、麻酔が効いてるし、初めの注射の痛みが和らぐ頃、歯を抉り始めたわけなので、痛いと言うようなモノでもなかった。ただ、凄く時間を掛けてたし、何度も削りなおしていた。麻酔がなかったら、拷問としか思えぬ所業ではあっただろう。血がドバドバ出てたし、やられている私よりも見てる、あるいは治療している側の方が痛ましく見えたことだろう。激痛を味わったのは、治療が終わってからだ。麻酔が切れた頃に凄まじい痛みを味わった。いや、もう味わったなんて生温い表現では足りないな。発狂しそうな激痛に、衝動的に死にたくなったくらいだ。・・・コレほどとはね、全くもって忌々しい。前にも別な親知らずを抜歯したことがあった。だから、明日には痛みがなくなるのも経験的に判っている。というか、こうして日記を書いている今は、痛みをほぼ和らいで、唾に混じる赤い血に、軽く溜息を付きたくなる程度で済んでいる。歯医者を出て、1時間後くらいが尤も辛かった。顔が歪むと言う感覚を物凄く久しぶりに体験した。もう二度とお世話になりたくないものだ。それにしても、痛みよりも恐ろしいのは他人に生殺与奪権を預けているあの状況ですね。理髪店で刃物を顔に当てられるのも同じシチュですが、口の中をドリルでゴリゴリと掘削されるのは、考えてみれば恐ろしい話である。手が滑ったり、あるいは悪意が合ったりすれば、この世で尤も嫌な殺され方をしてしまう。ある種の信頼関係がないと成り立たない行為だ。上から覗き込まれるあの様が酷くキモチワルかった。・・・歯医者に限らず医療関係は須らくそうだ。手術はモチロンのこと、点滴一つとっても信頼がないと成り立たない。それゆえに、医療ミス問題なんかをニュースで見ると凄く遣る瀬無い気分になる。どんな職業でもある程度、他人を傷つける可能性があるもんだが、医療関係は(あと食料関係も)特に、『すみません、うっかり』じゃ済まない世界だ。この辺は考えると結構怖いモンがあるなぁ。