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メッシとロナウジーニョ　明暗が分かれた南米の両雄

　メッシとロナウジーニョ――アルゼンチンとブラジルのビッグスターに彩られた北京五輪サッカーが終わりを告げた。中国国内における活字報道は、常に南米の２強とともにあった。優勝候補の「巴西」（ブラジル）と、その中で最も有名な「小羅」（ロナウジーニョ）、そして対抗馬となる「阿根廷」（アルゼンチン）のキープレーヤーである「梅西」（メッシ）。この四つの単語で埋め尽くされていたと言っても過言ではない。大会の前半はカナリア軍団とロナウジーニョが話題をさらったが、南米対決となった準決勝を機に、アルゼンチンとメッシが主役の座を奪った。

北京五輪で明暗が分かれたロナウジーニョ（右）とメッシ
北京五輪で明暗が分かれたロナウジーニョ（右）とメッシ【写真は共同】
■圧倒的な存在感を見せつけたメッシ

　アルゼンチンは、アテネ大会に続く五輪連覇を果たした。リオネル・メッシ（バルセロナ）とアグエロ・セルヒオ（アトレティコ・マドリー）の２トップは、ともに小柄ながら抜群のスピードで相手守備網を突き破った。中でも、圧倒的な存在感を放ったのが、メッシだ。中国では「金童」の異名を持つ。所属クラブの五輪派遣拒否で大会参加が危ぶまれていたが、チーム合流後、開幕戦ですぐさまチームのファーストゴールをマーク。その後も得点こそ少なかったが、キレ味の鋭いドリブルを武器に活躍し、その姿は、中国の国営通信『新華社』によって、雷光に例えられた。
　ひとたびボールを持つと、スタンドでは、スーパープレーを秒読みするかのように「メッシだ、メッシがボールを持ったぞ……」と期待の声が漏れた。それだけに、決勝トーナメント進出を決めた後のグループリーグ第３戦で温存された時には、選手交代を求める「メッシ」コールが沸き起こった。（サッカーにおける）外国人選手の中で「加油（がんばれ）！」の声援を名指しで受けたのは、メッシただ一人ではないだろうか。

■ロナウジーニョは戦犯扱い

　一方、ブラジルは銅メダルを獲得したものの、準決勝で宿敵アルゼンチンに０－３で敗れて大きな失望に包まれた。一部のブラジルサポーターは、勝利の可能性がなくなると見るや、相手の挑発に終始。あおりで飲み物を引っ掛けられて怒った中国人男性も挑発対象とするなど、やり場のないストレスを抱えていた。あるブラジル人サポーターは「アレシャンドレ・パト（ミラン）や今大会好調のチアゴ・ネービス（フルミネンセ）を後半まで使わないなんて、ベンチはクレージーだ。それに、なぜ太った豚が１０番を着けているんだ！　あんな奴じゃなくて、マルタ（同国女子代表のエースストライカー）がいれば、今日は勝てたに違いないよ」と、精彩を欠いたロナウジーニョと、彼を起用したドゥンガ監督を戦犯として非難した。

■スタンドの素直な反応

　中国ではサッカーの人気がそれほど高くなく、熱狂的だったり、批評的だったりという見方をする観客は少ない。前述の新華社も、両チームの対照を描きながら、準決勝の試合内容を報じる記事を「勝敗が大きな問題であろうか。２つの巨星（メッシとロナウジーニョ）が並び立ったことをわれわれは喜ぶべきだ。彼らが演出した『北京一夜』は大きな余韻を残した」（要約）という内容で締めくくっている。中国人観客の多くは、五輪というお祭りの中で、サッカーという一つのアトラクションを見ているに過ぎない。しかし、だからこそ、スタンドには素直な反応が表れていた。より楽しそうな応援団がいるチーム、より魅力的なサッカーを見せるチームにスッと心を寄せる。ロナウジーニョに集まっていた心を、メッシがフッと一瞬のすきを突いて持ち去った。振り返れば、そんな印象を残す北京五輪だった。

＜了＞

著者＝平野貴也
（8月24日 13時20分 更新） スポーツナビ