ショートストーリ「男と女」
あの女と逢ってはいけない。 理性ではわかっていても、体が疼く。 熟しすぎた南国の果実のようなあの女の体を思うだけで…。 いけない。 そう思いながらも、バイクを止め、彼女から送られたきたメールを読んでいた。 『逢いたいの。というよりもヤリタイの。あなたと…。愛なんてお互いにないでしょう。 あなたは私にとっての竿。私はあなたにとっての公衆便所だってことわかっているけど…』 どうしようか…。アクセルを踏み込むべきかどうか迷った。 その迷いを打ち消すように、ケータイが鳴る。女からだ。わざとでないで、留守電のメッセージ を再生する。「ねぇ、逢いたいの。抱いて…息子、キャンプでいないわ」甘く耳のそこに粘りつ くつくような彼女の声が、下半身を刺激していく。ブリーフを押し上げるように、熱く大きくな っていく。 …行ってはダメだ。そんなことをしては、もう取り返すことができなく。 しかし、俺はアクセルに踏み込んでいた。 まるで、昆虫たちを呼び寄せるトラップライトのように彼女の声が耳の底から、体中の粘膜を 刺激する。その刺激を「あなた。私たちもうすぐ結婚してから25年になるね。娘も22歳。 これからも、ずっと一緒にいてね」と甘えるように言った妻の言葉が打ち消そうとした。が、 娘が生まれてからベッドをともにすることもなくない妻の言葉では、すでに制御できなかった。 (続く)