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ブルルルル・・・・音の悪い古そうなスクーター音が聞こえてきた。これはきっと・・・。
「この音は、きっと柘榴だわ。」 ありさはそう言って立ち止まり、後ろを振り返った。俺もそれにつられて振り返ると、ぼさぼさの頭でよれよれの制服を着た男がものすごいスピードで俺たち目掛けて突っ込んできて、二メートルほど手前のところで急ブレーキで止まった。そして威勢のいい声で一言。 「よっす、調子はどうだい?」 「まあまあかな。お前は相変わらず元気そうだな。」 「おはよう、柘榴(ざくろ)。配達はもう済ませてきたの?」 「ああ、今日は面倒臭かったらそのまま学校来たよ。」 「今日も、でしょ。」 「うるせぇやい!」 この威勢の良い奴の名は大和柘榴(やまとざくろ)。こいつが俺のもう一人の親友で、小学校の頃のちょっとした出来事から深い付き合いになって、今でもそれが続いている。柘榴の父親は宝石商で、その影響があってか、柘榴の名前も宝石から搾取されたが、柘榴自身はその名前があまり好きではないようだ。別に大してひどい名前にも思えないが・・・。まあ確かに珍しい名前ではある。柘榴も本来なら俺らのようにやや上級階流のような暮らしをするはずだったのだが、その性分が故に自由を好み、形式的なものをとことん嫌ったので、高校に入るときに家を飛び出して一人暮らしをはじめた。柘榴の両親もそのことは認めていて、柘榴のことを温かく見守っている。しかし、柘榴は親からの金銭面での援助を激しく拒み、何度も話し合った結果学費のみ両親がもつという形になった。その他の生活費等は自分で稼ぐということにしたのでバイト三昧の毎日にひいひい言ってはいるが、それほど後悔した様子もなく、それなりに充実した生活を送っているようだ。 時々こういった柘榴の思い切りのよさがたまらなく羨ましく思える。俺も自分の存在をはっきり示したかったら家を出て独力で生活してみればいいのだ。それができないのは、どこか矤神の名にすがっている所があるということだろう。だから柘榴の性格は俺に嫉妬の感情さえ抱かせる。それほどに柘榴は自由な生き方をしているのだ。 「飯は食ってきたのか?」 俺が柘榴に問い掛けてみた。十中八九・・・ 「あ?食ってねぇ。そんな時間がなかったんだよ。」 やっぱり。するとありさはやれやれといった顔をして、鞄から包みを取り出し、それを柘榴に突きつけた。 「そんなことだろうと思って、今日もちゃんとおにぎり作ってきてあげたわよ。はい、これ。」 「お、さすがありさはわかってるな~。ありがとよ!」 と言って包みを開け、そのおにぎりを食べ始めた。以前は由香里に頼んで、おにぎりを一つ作ってもらっていた。由香里は人一倍器用で、特におにぎりを作らせると、綺麗な三角形のおにぎり握る。「あたし、おにぎりを作るのは昔から得意なんですよ。」と言ったのを聞いたことがある。しかしいつ頃からか、ありさが自分がやると言い出し、それ以降はその役はありさが行っている。二人は何度か矤神家に来たことがあって、そのときに由香里や沙百合と知り合いになった。特にありさと由香里はすっかり意気投合したらしく、俺が知らない間にちょくちょく会ったりしている。 「他にも、私にしてあげられることがあったらちゃんと言ってね?できるだけ助けになってあげたいから。」 「わかってるよ、困ったことがあったら、ちゃんとありさに言うからさ。」 実はこの二人、結構長い間付き合っていたりする。確か二年くらいは付き合っている気がする。喧嘩もするが、なんだかんだ言って仲が良い。そして間にいる俺はよく相談役になってしまう。 「ねぇ、明日ちょうど土曜日だから、十夜の家に言ってもいい?由香里にまた料理色々と教えてもらいたいし。」 「あ、俺も久々に行きてぇな。」 「明日は・・・何もないし、いいよ。また一日中?もしそうなら由香里と沙百合にお前らの分の食事も用意してもらわなきゃないからさ。」 「おう、わりぃな。じゃあ何か差し入れでも持っていくな。」 「そうね、私も何か持っていくわ。いつもお世話になってるからね。」 この二人と一緒にいると、いつもよりも自分の存在を強く感じられる。ありさも柘榴も俺を俺自身としてみてくれている。ただそれだけのことが、俺はとても嬉しかったりする。三人で今まで色々な思い出を作ってきた。これからもきっとこの友情は続いていってくれるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年05月31日 21時17分19秒
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