先月の総選挙投票日前日の毎日新聞に、専門編集委員の伊藤智永氏は選挙の結果予測と石破政権の行方について、次のように書いている;
今年は年間を通して世界主要国で国政選挙が行われ、政権与党の敗北や劣勢が相次いでいる。
英国で保守党が大敗し、14年ぶりに政権が交代。フランス下院選では当初、マクロン大統領の政党「再生」が敗北し、決選投票で左派連合が第1党になった。インドでもモディ首相のインド人民党が、予想外の過半数割れに陥った。
争点や事情が異なるため、そこに一貫した説明をひねり出そうとすればこじつけになる。本紙連載「時代の風」で7月、待鳥聡史京都大教授はふんわり「現職の危機」と名付けていた。
11月の米大統領選は、すでにバイデン大統領の撤退により、命名通りになる。明日投開票される日本の衆院選も、各メディアは終盤情勢を「自民党大敗か」と分析し、石破茂首相に早くも退陣論が起きかねない雲行きだ。
もし日本も「世界選挙イヤー」の潮流に沿う結果になるとしたら、「政治とカネ」を超えた構造的要因を探す方が理にかなう。
「現職の危機」現象に、あえて共通の意味を見いだすなら、何の課題であれ、今までのやり方や説明ではもう納得できない、という不信の表明に違いない。
自民が大敗したら、責任者はもちろん石破氏だが、まだ就任1カ月足らず。本当の責任者は、世論の不信をほったらかして辞めた岸田文雄前首相。さらにたどれば、裏金問題の巣窟だった旧安倍派の議員たちである。
裏金問題は、安倍晋三長期政権のおごりが助長した権力腐敗だ。「裏金議員」が多数落選しても、それを民主主義の健全な働きと認めないのは無理がある。
となると「反安倍政治」を説いてきた石破氏は、20年近い「清和会(旧安倍派)支配」の大掃除に泥をかぶった「功績」で名を残すのかもしれない。
明日の選挙には、「安倍時代」総決算の意味もある。
ただし選挙の民意に、過剰な期待を抱くのは禁物だ。待鳥教授も「時代の風」で、各国の「選挙で躍進した勢力に、持続可能な代替案があるかどうかは疑わしい」と指摘していた。
日本では立憲民主党が大幅に議席を伸ばすとの予測がある。野田佳彦代表は「政権交代こそ最大の政治改革」と演説してきたが、今の野党関係では、選挙後に立憲中心の非自民政権ができる見通しは相当難しそうだ。
むしろ与党が過半数割れしても、あの手この手で石破政権は続くかもしれない。釈然としないが、世界の民主主義国が同じ忍耐を試されている。
(専門編集委員)
2024年10月26日 毎日新聞朝刊 13版 2ページ 「土記-もし自民が大敗したら」から引用
総選挙の結果は、だいたい伊藤氏の予測のとおりとなった。しかし、石破氏が旧安倍派である清和会支配の大掃除で泥をかぶる気があるのかと言えば、その気はないのではないかと、私は思います。もし石破氏が、旧安倍派を徹底的に「大掃除」する気があるのなら、総裁選の時に言っていたように「先ずは予算委員会を開いて、安倍・菅・岸田の三代の実績について、野党に質問させて、自民党の新総裁としての立場から、是は是、非は非という議論を尽くした上で、解散・総選挙という手順にするべきであった。しかし、石破氏は組閣の時点で、そのような「路線」では党内の協力を得られないという「現実」の前にして、総裁選の最中に口走ったことがらは全て覆して、党内の「従来路線」と妥協して「のらりくらり」路線で行こうとの考えのようですから、「日本政治の正常化」を実現するには、来年の参議院選挙で自民党に「引導を渡す」という作戦で行くしかないように思います。