カテゴリ:読書メモ
去年の暮れからお正月にかけて『不毛地帯』5巻(山崎豊子)を読み、ちょうど高度経済成長期のいわば、わたしたちが通ってきた昭和の時代をたどるようで興味深く、山崎豊子さんの代表作だとは思いました。 おもしろく読みふけった話は置いといて その主人公の「壱岐正」は「瀬島龍三」をモデルにしているらしいですが、それはそれで。 その「壱岐正」や『沈まぬ太陽』の「龍崎一清」の人物像の描写が孤愁の影を宿していて印象深く、妙に気になったのであります。 山崎豊子さんが若いころ大阪の毎日新聞に入り、『あすなろ物語り』の作家井上靖が上司だったのは有名で、しごかれた(?)話は作家紹介にあります。 わが町の図書館がちょうど井上靖の作家展をしていたので、見に行きましたら井上靖は詩人でもあったと知りました。 さっそく井上靖の詩篇をひもといてみましたら、冷たーく研ぎ澄ましたような詩が続いておりました。 そのひとつに「裸梢園」という題の心象風景詩があり、こんな風な内容 氷雨がぱらぱらと過ぎ、梢と梢とは、刃の如く噛み合って、底知れない谷をなして行くところ、破れ傷ついた二月の隊列があてどなく落ちてゆく。 (これは山崎豊子さんが要約しているもの)なかなかの印象です!そして 「一匹狼のもつ誰にも汚されない厳しく、烈しいそして純粋な野生に満ちた目が生きている。しかし、一匹狼には強靭な実力がいる。群を恃まずにして生きぬいて行ける実力と、いかなる時にも孤独に耐え得る厳しい精神がいる。」 と、全集の月報に随筆を書いていらっしゃるのです。 ははーん、師を敬い想いいれて作品に昇華させているのだなーと思いました。 その井上靖の詩集『北国』に「猟銃」という詩もありまして、 天城の山の中で出合った霜柱を踏みしだき、猟銃をかついで、孤独に行過ぎた男の後姿に人生の白い河床をのぞき見た、しみいるような重量感をうけ、自分も磨き光れる猟銃を肩にくいこませたい、都会の雑踏の中で、ゆっくりと、静かに、つめたく というのです。 井上靖には『猟銃』という作家デビューの作品があります。読みたくなりました。 やはり、小説はこの詩が冒頭にでてきまして、詩が取り持つ縁、その天城の男が作家に便りをくれるのです。 孤愁色濃い男には過去のわけがありました。 でも、はっきり言ってなんじゃらほい、美しい妻がありながら、離婚して一人娘と暮らしている妻の従姉と不倫。騙しだまされて三つ巴。あげくにその従姉は別れた元夫が忘れられない、とラジオ人生相談のよう。 そんな小説を師、井上靖氏はお書きになったのですねぇ。はぁ~。
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