佐木隆三『わたしが出会った殺人者たち』(新潮文庫)
昭和・平成にわたって世の中を騒がせた
いや、世間が騒いだ18件の殺人事件を
裁判傍聴業などして、ずっと取材してきた作家が
ノンフィクションなど自身の過去の作品にからめて振り返っている
一章から一八章まで
わたしが記憶しているものもいくつかあり
たとえば
場所は千葉、女医の妻殺人の医師藤田正
金沢の老舗菓子舗のおかみになっていた福田和子
連続幼女誘拐殺人の宮崎勤
和歌山毒カレー事件の林真須美
オーム真理教事件の浅原彰晃
大阪池田小大量殺人事件の宅間守
などなどの18件のおぞましくやりきれない殺人事件の犯罪者の人物
その後の顛末や詳細を冷静に簡潔に書いてある
フィクション、ノンフィクションどちらが好きか
と問われればわたしは断然フィクションがいいし
それもファンタジーに走らず
ミステリに近く、ストーリーが複雑で
なお、文学性に富んでいる本が好みなのであるが
しかし、この本はノンフィクションであるのに
あまりにも文学的な文学だと、とても感心してしまった次第
それは佐木さんも背中を押され、この本の解説者も指摘しているように
「文学とは人間という不可思議な生き物の正体に、どこまで迫れるかだ」
という埴谷雄高さんの言葉に表れている
それは理不尽な殺人事件を起こしてしまった
死刑や無期懲役になったおぞましい最低と言える犯罪者を
普通の人間の隣人であると思うことである
「日常の陰の隣人たち」(佐木さんの言葉)
おそましい、おぞましいと読みながら
果たして自分が、自分の周りがほんとうに正常かあるいは清浄どうか
だんだんとわからなくなってくるのである
また
後期高齢者になった作者自身の自分史のようなものまで
率直に書き込んであることに好感を持った
北九州の郷里に戻られ、妻子とも別れ
海の見える高台で、畑を作りながらの一人暮らし
といいながらこのような書き物もしていらっしゃるのであるが