ふとしたことで井上靖『蒼き狼』を読んでいる
むかし、結婚した時に父から譲り受けた
河出書房の「現代の文学」という43巻(冊)ほどある
「全集もの」が流行ったあのた時代の仰々しいもの中の「井上靖集」である
その過去遺物全集本を、処分しようとて手に取ったのであるが
本の整理の常、つい拾い読み面白くなったので本格的に読み始める
しかし、その当時の本は(50年前)印刷の薄さと紙質の悪さに眼が痛くなり
これはたまらんと
文字の大きくなった新潮文庫本に切り替えて(購入して)読んでいるというわけである
さて
『蒼き狼』とはあの歴史に出てくる遊牧民成吉思汗の生涯を描いた作品
井上靖らしく真摯、清澄、簡潔
なのにおもしろい
母親からは生まれるが、父親は誰?という不幸
兄弟はいつ敵になるかもしれないのだという酷薄さ
血をわけた家族は赤の他人より信じられないという真実
昨日の味方は今日の敵になる無常
成吉思汗という人物がおもしろいのか、作者がいいのか
草原を怒涛のごとく駆け抜けて侵略、略奪の繰り返しは
決して正しいことではない
でも
なにかわたし(たち)に足りないものであるなとの思いが
読ませるのである