ひさしぶりに文学な作品を読んだ。
小説と文学の違い(とわたし流の分け方)は、
地の文が説明、解説になっているものと、
文が練れていて、雰囲気が漂うもの
とである。
もちろん、前者でも後者でもいいものはいい。
コクがあるものが傑作なのであるし、読む楽しみになる。
この短中編集に収めてあるのは
「岩尾根にて」「羽蟻のいる丘」「霊媒のいる町」「谿間にて」「夜と霧の隅で」
どの作品も心揺さぶられるのだが、やはり芥川賞の「夜と霧の隅で」が印象深い。
第二次大戦中、ドイツ南部の町にある公立精神病院の医師たちは、
ナチス政権による民族浄化というとんでもない思想の影響を受けざるを得ないその苦悩がある。
それが単にドキュメンタリーではなく、文学的で深みがある文章が心にしみた。
迫害されるユダヤ人だけではなく、精神疾患者たちにとってもむごい政策というか仕打ち。
そして病んでいる本人たちには何もわからないのだ。
患者を治療しているドイツ人医師たちの悩みはさまざま。
そこに同盟国の日本人医師も留学生としていたが病み、入院してその不条理を経験する。
その妻がユダヤ人という設定も悲しい。
わたしが映画や文章などで知ったことよりも、この中編は胸に響いた。
それが文学の力と思う。